国境なき子どもたち設立25周年を記念して、関係者のインタビューを連載します。
KnKと私(4) -カンボジア プロジェクト・コーディネーター 倉持 真弓-
職業訓練で自分の居場所を見つけ、スキル習得と仕事の経験で自信を身につけた若者たちの表情はとても凛々しく、頼もしいものです。
– 前職とKnK入職のきっかけ、理由を教えてください。
私にとってKnKは3つ目の職場です。それまでは日本とシンガポールで一般企業のIR(投資家向け広報)や人事などを担当してきました。
これまでずっと、自分が安全で幸せな生活を送れている一方で、生まれた環境のせいだけで不安を抱えながら生きていかなければならない人たちがいる世の中は本当に不公平だなと漠然と感じていました。そんな中、業種は違えど自分のやりたい事や信じていることを仕事という形で熱意をもって働いている人たちに接していくうちに、私も頭で考えているだけでは何にもならない、自分も行動を起こそうと決めて国際協力の分野で働くことを決意しました。
これまで全く国際協力分野での経験がない私を受け入れてくれたのがKnKでした。
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– 通常、どのような業務を行っていますか?
カンボジアのパイリン州でコミュニティ・ラーニング・センター(CLC)の環境整備や中途退学した若者たちへの職業訓練を提供するプロジェクトに従事しています。普段は現地スタッフと一緒に学校やコミュニティを訪問し、中途退学者の若者やそのご家族に対し職業訓練の情報を周知したり、就職先開拓や就労セミナーを開催したり、就職面談に同行することもあります。
また、現地のカウンターパートでもある教育局やCLC運営委員会、職業訓練講師たちへの運営サポート(ミーティングや運営助言など)、地域コミュニティの方たちとの関係構築を行っており、地元の人たちと一緒に現地の若者を取り巻く環境の改善を目指して活動しています。
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– 業務をする上で大切にしていることは何ですか?
仕事するときだけではなく、普段から気を付けていることは、自分と価値観の違う(違うものを信じている)人に対して自分の意見を押し付けないという事です。私が普段接しているカンボジアの若者も、若者のご家族も、一緒に働いている現地スタッフのメンバーとも、生まれ育った環境は全然違っているのだから、違う意見や考え方を持っているのは当たり前であると。ただ、目指す方向が同じであれば、「信念」が一緒であれば、たとえ違う価値観を持っていたとしてもお互いを尊重しあって生きていけるのかな、と思っています。(そうは言っても、私自身全ての違いを穏やかに受け入れるという境地に達するにはまだまだ修行が必要なのですが・・・)
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– これまで最も困難だったエピソードを教えてください。
カンボジアで若者の就労支援に従事し始めてから2年半が経ちました。その間に400人以上が職業訓練に参加し、200人以上が就労資格を取得、150人近くが安定した就職先を確保できました。しかし、参加した若者の100%が最後まで訓練を終え就職できない実状もあります。その背景には様々な事情がありますが、ほとんどの場合は貧困が起因です。
例えばエアコン修理コースに登録した24歳の男性は、家族の畑で働くスタッフを雇うお金がなく、息子である彼自身が手伝う必要がありました。訓練に通わせられないと両親に訓練参加を大反対され、結局1回も訓練を受けることができませんでした。
また、縫製コースを修了した17歳の女子はコツコツと4ヵ月の訓練に参加し、縫製店での就職を決めていました。しかし、数日後「家族の借金を返済する必要があり、両親から隣国に出稼ぎに行くように言われた。そのため縫製店での就職を取りやめる」という連絡があり、私たちも急いで本人に話を聞きに行きましたが「まだ50%は縫製店で働きたい気持ちはある。でも、両親から言われた事なのでどうしようもない」と悲しそうな顔で話してくれました。こういった時はいつも自分の無力さを感じ、悔しい思いでいっぱいになります。
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– これまで最も嬉しかったエピソードを教えてください。
職業訓練に通うようになった若者たち、技術を身に着けて就職が決まった若者たち、就職先で仕事を任せられるようになった若者たち。職業訓練で自分の居場所を見つけ、スキル習得と仕事の経験で自信を身につけた若者たちの表情はとても凛々しく、頼もしいものです。その表情をみる度に、私たちの活動が無駄ではなかったことを実感し、嬉しい気持ちになります。
エアコン修理コースを修了した18歳のシタイ(Sithai)は、私たちがコミュニティを回って職業訓練への参加促進を行っている時に、たまたま友だちと一緒に外でバレーボールをしていたところに声をかけた男子です。彼は中学校を退学した後に建設現場で働いていたものの過酷な労働環境のため退職し、当時は日雇いで畑仕事をしていました。私たちが話しかけたときは、ほとんど興味がなさそうで、それより今の生活(日雇いでお金を稼ぎ、友だちと遊ぶこと)以外は考えられないといった薄い反応でした。しかし、訓練開始初日に1人で現れ「安定した仕事をしたいから訓練参加を決めた」と話す彼の顔を見て、あの時に声をかけて本当によかった、と心から思いました。(今、彼は職業訓練を終え、エアコン修理店で働く毎日を送っています!)
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– 休みの日(OR仕事をしていない時)は何をして過ごしていますか?
洗濯をしたり、買い物をしたりするなど平日できていなかったことをやっています。買い物は近くのプサー(市場)で野菜や魚介類などを買ってきて、音楽を聴きながら平日の夜ごはん用の作り置き料理を一気にまとめて作るのがいいリフレッシュになっています。
また、カンボジアに来てこれまでは新型コロナウィルスでなかなか行けていませんでしたが、連休にはカンボジア国内外への小旅行も少しずつ再開しています。
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– 今後、KnKの活動を通じてご自身が取り組みたいことを教えてください。
今この瞬間にも「怖い、痛い、つらい」という思いをかかえて生きている、そして自分自身でその現状を打破するのが難しい子どもたちがたくさんいる世の中で、1人でも多くの絶望が希望に変わるような活動に従事していきたいと思っています。その中で私自身がやれる事の限界を設定せずに、まだまだ未知なことにも挑戦していきたいです。
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– KnKが各地の苦境にある子どもたちと共にあるためには、新たな仲間が必要です。彼らに向けたメッセージをお願いします。
苦境にある子どもたちは、人生や生活における選択肢が日本で生まれた私たちに比べて圧倒的に少ないです。そのため豊かな生活を目指したくても、その道を選ぶことができないのです。子どもたちに何かを一方的に与えるという事ではなく、彼・彼女たちが私たちと同じように多くの選択肢やチャンスをつかめるように、私たちにできることを一緒に考えていけたら嬉しいです。
認定NPO法人国境なき子どもたち(KnK)
カンボジア プロジェクト・コーディネーター
倉持 真弓
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スタッフインタビュー
- KnKと私(1) -創設者 ドミニク・レギュイエ-
- KnKと私(2) -ヨルダン プロジェクト・コーディネーター 大竹 菜緒-
- KnKと私(3) -広報・ファンドレイジング/支援者対応 村松 知恵子-
- KnKと私(4) -カンボジア プロジェクト・コーディネーター 倉持 真弓-
- KnKと私(5) -マネージング・ディレクター/FR 松浦 ちはる-
- KnKと私(6) -カンボジア、バングラデシュ事業担当 三喜 一史-
- KnKと私(7) -理事 栗林 まどか-
- KnKと私(8) -広報・ファンドレイジング/支援者対応 岡田 茜-
- KnKと私(9) -ヨルダン事業担当 佐々木 恵子-
- KnKと私(10) -マネージング・ディレクター/広報 清水 匡-
- KnKと私(11) -フィリピン、パレスチナ事業担当 久野 由里子-
- KnKと私(12) -理事 玉村 翔吾-
- KnKと私(13) -マネージング・ディレクター/パキスタン事業担当 大竹 綾子-
- KnKと私(14) -ヨルダン/シリア難民支援 事業総括 松永 晴子-
- KnKと私(15) -カンボジア プロジェクト・コーディネーター 福神 遥-
- KnKと私(16) -会長 寺田 朗子-