【国境を越えて】広げよう!子どもの権利条約キャンペーン

【国境を越えて】広げよう!子どもの権利条約キャンペーン

2019.11.01

2019年は「子どもの権利条約」が国連で採択されて30年、そして日本政府が批准して25年という節目の年です。(1989年に国連が子どもの権利に関する条約を定め、日本は1994年にその条約に参加)国境なき子どもたち(KnK)は、『広げよう!子どもの権利条約キャンペーン』に賛同しています。日本の18未満の皆さんは、自分たちにどのような「権利」があるか知っていますか?世界中の子どもたちに「権利」があることを学び、理解を深めてもらいたいと、2018年友情のレポーターの落合愛友海さんと一緒に、この特集企画を考えました。

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「子どもの権利条約」について、教えて林先生!

話してくれた人林大介さん(子どもの権利条約ネットワーク事務局長、大学の先生もしている)
*高校3年時に日本が「子どもの権利条約」を批准するというニュースに触れ、関心を持った。高校の文化祭のテーマとして「子どもの権利条約」について調べる内に、生涯のテーマとなった。18歳選挙権の専門家としても知られている。

話を聞いた人落合愛友海さん(東京で暮らす高校2年生)
*中学生時代に関わった団体スタッフとの出会いで、将来、教育分野に進む夢を抱く。広く世界を見たいと2018年の「友情のレポーター」に応募し、夏休みにカンボジアの同世代の青少年たちを取材。「児童労働」や「子どもの権利」に関心が広がっている。

なぜ「子どもの権利条約」について学校で教えてくれないの?

落合:私が初めて「子どもの権利条約」を知ったのは、キッズドアという支援団体の学習会です。「将来、途上国で教師の仕事がしたい」と話した時にボランティアの先生が、じゃあ知っておいた方がいいよと教えてくれました。

中学校の授業などで詳しく教えてくれていたらもっと良かったと思います。公民の授業の中で「子どもは教育を受ける権利がある」「大人は子どもに教育を受けさせる義務がある」と教わった記憶はあります。どうして学校の授業では「子どもの権利条約」について詳しく教えてくれないのでしょうか。

:公民の教科書に「子どもの権利条約」は載っています。憲法の授業でも基本は教えることになっていますが、子どもも権利主体ですといったことまでは教わらないかもしれないね。学校の先生も、子どもの権利条約について教わったことがないから、教えるのが難しいのでしょう。基本的人権や障害者、女性の権利などについては教えることはあっても、子どもを権利主体として見ている先生はそこまで多くないと思います。特に公立学校にはいろんな子がいて、先生も大変なので、そこまで対応できないのかなと想像します。

先生たち自身も働き方改革、部活動の指導の問題などで権利が保障されていない面もあります。日本ではあまり「子どもの権利条約」を含めて権利というものが浸透していないのが現実です。「権利」があってこそ意見を言えるし、より良い社会を作っていけるはずなんだけど、日本の学校教育ではそこを教えず、表面的な知識のことばかりを教える傾向が強いと感じています。

落合:総合学習の時間などで個人的に取り組んでいる先生方もいますか?

:いると思います。道徳の時間も考えられます。

今、時代が変わっていく中で、LGBTや外国籍の子どもや、多様性を受け入れないと学校自体もやっていけなくなっていると思います。特に公立の小中学校ほど。(KnK事務局のある)新宿区の公立の小学校の全児童数に占める外国人児童数の割合は4.4%で、都内でも1位です。今は小学生でも宗教上の理由でスカーフを巻いたり、ピアスをつけたりする文化もあります。そういう地域から少しずつ理解は進んでいると思います。

「育つ権利」と「守られる権利」の違いは?

落合:「子どもの権利条約」の4つの柱を見た時に、「育つ権利」と「守られる権利」の違いがわかりにくく感じました。

:子どもは大人ではなく弱い存在ですので、自分自身ではどうにもできないことがあります。そこで「守られる権利」があるのです。

ただ、この分類はユニセフが示している分け方であって、これが絶対ではありません。「子どもの権利条約」は全部で54条あります。それを全て説明するよりは、この条約に書いてあるのは、「生きる権利」、「育つ権利」、「守られる権利」、「参加する権利」ですと説明した方がわかりやすいでしょ。あとはもともと「子どもの権利条約」ができる前の「子どもの権利宣言」(1959年)などの時代から考えると、条約になって初めて「参加する権利」というものが入りました。「子どもの権利条約」で新たに「参加する権利」が加わった流れもあり、この4つの分け方は整理としてはわかりやすいと思います。

生きる権利

・命をたいせつにされること
・人間らしくいきていくための生活水準が守られること など
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育つ権利

・自分の名前や国籍を持ち、親や家族と一緒に生活できること
・教育を受け、休んだり遊んだりできること など
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守られる権利

・あらゆる種類の虐待や放任、搾取、有害労働などから守られること
・戦争から守られ、被害にあった子どもの心や身体が保護されること など
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参加する権利

・自由に意見を表したり、グループ活動ができること
・成長に必要な情報が提供され、子どもにとって良くない情報から守られること など

落合:「守られる権利」の中には子どもへの体罰に関する条文もありますか?

:含まれます。ただ日本政府の条約の解釈として、「家庭内のしつけ」自体は否定していません。要するに「しつけ」という名の体罰は今も残っています。それについては先日、体罰禁止条例が東京都議会で通り、国会でも全ての政党が体罰禁止については賛成をしています。これから法整備が進むと思います。

しかし、日本の中ではしつけと称した暴力はいまだに残っているし、親も「何かあったら学校で叩いてください」という文化は残っています。髪が長いと学校でバリカンを出して刈ってしまうとか、教育という名のもとに行われる虐待はいまだにありますし、それを良しと思っている先生がいるのも事実です。

“成長に必要な情報”と“子どもに良くない情報”の線引きはどこ?

落合:「参加する権利」にある、成長に必要な情報と子どもに良くない情報の線引きはどこにあるのでしょうか?

:いわゆる有害情報の問題ですよね。子どもたちが暴力やポルノ、残虐表現に触れないように、良く知られているのはR18(18禁)とかR15(15禁)とかあります。そういう規定の部分くらいですね。

ただ、それに頼るだけでなく、適切な情報を選び取れる力を子どもが身に着けることはもちろん求められてはいます。それが情報リテラシーとかネットリテラシーとか。特に今のスマホ文化の中で、いろんな情報がネットの中にはあるので、それとどう向き合っていくのか、というところは教えていかなければなりません。東京都教育委員会では「SNS東京ルール」を定めて学校でも教えるようにしていますが、大人が追いつけていない現実もあります。

インターネット系の企業が、子どもがアクセスできないよう対策したりなどの整備はされています。正しい情報と正しくない情報、あるいは自分が情報を発信するときのプライバシーの問題などを含めてのどうしたらいいのか、子ども向けの教材を作って、出前授業などをしてくれる企業も少なくありません。

中高生の方が先を行き過ぎて大人が想定していない使い方をすることがあります。新しい文化が生まれるという面もあるのですが、そこに大人が追いつけないという現状もあります。

「子どもの権利条約」を守らなかった場合、罰則はあるの?

落合:「子どもの権利条約」を守らなかった国や人に対して、何か罰則があるのでしょうか?

:罰則はありません。一応、権利条約の43条で「子どもの権利条約」を批准した国は5年に一度、国連子どもの権利委員会に対して、国内でどのような取り組みをしたのか報告する義務があります。

この前、日本の順番が来て、2019年1月にジュネーブで国連の審査がありました。そこで、日本政府はうまくやっていると答え、悪いことは報告しませんでした。その一方、日本のNPOなどからは別の視点で報告書が提出されています。国連はその両方を見た上で日本政府の取り組みは十分ではないとの指摘をしました。日本政府は次の5年後までに改善するようにと勧告を受けています。

勧告に従わなかったからと言って罰則がある訳ではなく国の取り組みについてはその国の独自性、自主性に任されています。そうは言っても国際社会の中で、日本の立場上、ちゃんと取り組まなければ指摘を受けることになります。

体罰禁止についても、やらざるを得なくなってきているのは事実です。

落合:罰則が無いと、「子どもの権利条約」があるからと主張しても、聞き流されてしまうと思います。

:国連が定めている条約とは言え、基本的にはそれぞれの国が法律として定めるべき事です。

まずその国の憲法があり、その憲法の下に条約がある。さらに、国際上の約束事である条約に基づく法律がある。法律は条約を批准した以上改正する必要があります。

「子どもの権利条約」を批准している以上は、子どもの権利に関する総合的な法律があるべきだという議論が、条約を批准した時から日本の中でもずっとなされています。しかし、そうした議論には、現政権は消極的です。

先日、ようやく児童福祉法が改正され、そこに「子どもの権利条約」という言葉が入ったぐらいです。

もちろん前進はしています。最近起きた虐待死事件などもあり、権利表明、権利保障など、子どもの権利を尊重すべきだと言う大きな流れが来ています。

一方で、日本では子どもを半人前扱いにするなど、子どもが権利主体であると見なされることがまだまだ足りないと感じます。

カンボジアの子どもたちは権利条約で守られている?

落合:去年、「友情のレポーター」としてカンボジアに行き、ゴミ山で働いている女の子や小さいけど小学校に行っていない子どもたちに出会いました。 >>関連記事

カンボジア政府は「子どもの権利条約」に批准しているのですか?

:1992年10月15日に、日本より先に批准しています。政府としても意識はあると思います。政府としては。ただ経済状況や文化による事情はあるのかなとは思います。

ちなみに「子どもの権利条約」は、今、世界でアメリカだけが批准(国どおしの約束ごとに参加)していません。アメリカは将来批准しますよという署名だけはしてるんですよ。クリントン時代のヒラリーさんが。でもその後批准してないままです。ただアメリカの場合は、国全体の国内法というよりは、州法が重要なので、条約に批准していないからといって子どもの権利が保障されていないかというと、そうとも言えません。

落合:ゴミ山で働くような途上国の子どもたちの権利を守るためにはどうしたら良いのでしょうか?

:家計を助けるためなど、子どもそれぞれに事情があると思うし、そもそも子どもを守る制度がその国にどれほど整っているかということもある。ただ、将来その国を担う存在であることを考えると、教育というのはもちろん大事だし、子どもの権利条約でも「教育を受ける権利」というのは掲げてある。

母親の働く環境を整えることで、子どもが労働力にならず学べる環境を整えること、そこは改善していかなければならない。

あとは読み書き計算など生きていく上で必須な識字率を上げていくこと、何かでだまされないよう、計算力や思考力を身に着けることは本当に大切です。

そのためには、NGOや青年海外協力隊が、学び場を作るというのは子どもの権利を守るうえでとても大切だと思います。

子どもの働き方に対しても、有害労働はおかしいと声を上げていくことは大事だし、その中で働く子どもたち自身が例えば労働組合を作り、雇用主に働きかけていく必要もある。

ただ、日本や外国から来た人たちが声高に叫ぶだけでは前に進まないと思うので、現地の人たちがどうしたいかといった、自主性も大切です。

「子どもの権利条約」が浸透している国はどこ?

落合:それではカンボジアなどに比べて、逆に「子どもの権利条約」が浸透している国はどこなんですか?

:ヨーロッパはすごく浸透しているなと思います。一昨年、ドイツを視察した時に最も感じたのは、子どもの声を大事にする姿勢です。4~5才の子どもであっても権利主体として丁寧に意見を聞き取る場面を目の当たりにしました。

ドイツ人の担当者は「おとなは、子どもってこう考えてるに違いないと決めがちだけど、それは聞かないとわからないでしょ。それも全部子どもの権利ですよ」と話していました。子どもの声や当事者の声をちゃんと聞くことが当たり前という考えが、すごく浸透していると感じました。

また、子どもたちにカメラを向けて写真を撮ろうとすると、「何であの人撮ってんの?」と子どもが声を上げたこともありました。まさに子どもの権利条約16条にあるようなプライバシーの問題で、当事者の子どもがちゃんと口に出せる土壌があります。

もちろん子どもなので理解が間違っていたりうまく表現できないこともありますが、それを否定するのではなく、どういうことなの?と確認することが大切だということを、ドイツでは徹底していると感じました。

もちろんドイツでも、戦前からそうだったわけではなく、第二次大戦後のベトナム戦争や市民運動の流れの中で民主主義が育ってきています。そうした歴史の流れの中で子どもの権利や女性の政治参加への意識も広がっているのではないかと感じています。

「子どもの権利条約」、日本の子どもたちが取り組めることは?

落合:「子どもの権利条約」への理解を深めるために、日本の子どもたちができることはありますか?

:周りに味方になってくれる大人を作り、多様な意見を受けいれる環境を創っていってほしいです。

この先、外国人労働者が増え、外国籍の子どもと触れ合う機会も増えると思います。日本の文化や宗教とは異なる文化を持っているので、「それぞれの文化を認め合うことが大事だよね」ということを、子ども同士でも意識してほしいです。

落合:将来は、自分の可能性を信じて広げてくれた大人たちのような活動をしたいと思っています。いじめや自殺の問題を聞いて、自尊感情のことや市民活動にも興味を持ち始めています。将来、教職ではなくても、学校とは違う場で青少年活動を推奨したり、座学だけではない勉強のサポートをしたいと考えています。

:いくつか都内にも中高生向けの居場所は増えてきています。そういったところに関わると、同世代の他の子たちと出会えて、企業も関わっているので視野が広がると思います。

あとは、「トビタテ!留学JAPAN(高校生の留学)」というプログラムが2020年度まではあるので、そこにチャレンジすることも考えられるのでは?

自分が住む地域とは異なる文化に出会ってほしいし、そういう機会があればためらわずに積極的に関わってほしいと思います。

林先生とお話してみて、「子どもの権利条約」を子どもたちが理解することで、より自尊感情が高まり、行動がポジティブになると感じます。そして、日本の子どもは家と学校以外に、居場所を作った方が良いと思いました。 2018年友情のレポーター 落合 愛友海

林大介氏(プロフィール)

認定NPO法人チャイルドライン支援センター事務局長、文部科学省生涯学習政策局専門職などを経て、現在、首都大学東京 特任准教授、東洋大学ボランティア支援室 ボランティア・コーディネーター、大学非常勤講師(東洋大学、立教大学、国士舘大学などで「児童福祉特別講義」「シティズンシップを考える」「特別活動の理論と実践(教職)」「ボランティア・NPO論」など)。
ほか、川崎市子どもの権利委員会委員、世田谷区子ども・青少年問題協議会委員、子どもの権利条約ネットワーク事務局長、模擬選挙推進ネットワーク事務局長等。
集英社新書「「18歳選挙権」で社会はどう変わるか」(2016年6月)。

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林先生からのお知らせ

子どもの権利条約 連続講座2019(第1回)
5/24(金)の夜、早稲田大学・戸山キャンパスにおいて、連続講座第1回が開催されます。(主催:子どもの権利条約ネットワーク)
要申込、参加費あり。
詳細はチラシ(PDF)をご覧ください。

 

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