東日本大震災が発生した2011年3月11日。その日、東京都新宿区にある国境なき子どもたち(KnK)事務局では、海外から帰国したばかりの当時事務局長、ドミニク・レギュイエが、機内で見た映画について朝から興奮気味に語っていました。スマトラ沖地震・インド洋大津波で被災しトラウマを抱えた女性をめぐる『ヒア アフター』という作品です。2004年の暮れに発生した未曾有の大津波災害は、KnKがそれまで行ってきた活動から未知の分野に活動規模を広げるきっかけともなりました。被災したタイ、インドネシア、インドに何度も足を運んでいたドミニクは、映画に登場する津波のシーンに衝撃を受けたと話していました。
午後には、神奈川県から「友情の5円玉キャンペーン」に参加してくださった学校関係者が来局しており、担当者が対応していました。そして迎えた14時46分、地面が大きく横揺れする中、その場にいた全員で近くの空き地に避難をしました。
帰宅困難となったスタッフは事務局やドミニクの自宅に泊まり、翌朝にはその場にいた全員の中に「何ができるかわからないけれど、できることから始めよう」という静かな決意がありました。
国内で、それも大規模な自然災害地で教育支援を行うのは初めてのことでした。
私たちはスマトラ沖地震・インド洋大津波の支援現場の教訓を生かした上で、以下のことを大切にしながら活動を行いました。
・KnKが主導権を持つのではなく、できることを伝えて要請があれば動くスタイル
・支援物資はできるだけ地元企業や商店から購入する
・子ども一人ひとりの状況に応じて、できるだけ広く柔軟に対応する
・子どもが子どもらしくいられる日常や安心できる居場所を確保できるよう後押しする
それでも、世界中から届く数々のご支援をマッチングする中では、被災地域住民の方のお気持ちに寄り添えなかったこともあったのではないか、という思いも残っています。
文字通り、手探り状態で支援を進める中で、活動を支えてくださった国内外のご支援者さま、助成団体、教育委員会や現場の行政の皆さま、そして私たちを受け入れてくださった、特に岩手県沿岸部にお住まいの皆さまに、改めて、深く感謝申し上げます。
写真と数字で振り返る、KnKの東日本大震災支援
活動した市区町村
【岩手県】田野畑村/宮古市/山田町/大槌町/釜石市/大船渡市/陸前高田市/住田町/野田村/遠野市/盛岡市
【宮城県】石巻市
【福島県】南相馬市/郡山市
【茨城県】北茨城市
現地教育機関との連携
教育委員会の皆さまと連携し、学校の再開と子どもたちが避難所からも安心して通学できる環境を整えました。
・支援した学校 91校(小学校&中学校:77校、高校:14校)
・通学バス 22台
・高校の学生服 767着
物語や文章の紡ぎ出す世界が子どもたちの力になれば、という思いで、全国から集まったメッセージ付きの本を届けました。また、地元の書店を力づけるために図書カードも配布しました。
・全国から届いたメッセージ付きの本(友情のライブラリー) 14,000冊以上
・子どもたちに配布した図書カード 6,000枚
※その他、体操着や給食食器、浄化槽などの学校資機材、校庭の盛り土や教職員住宅の整備など、物資支援は多岐にわたりました。
走る! KnK子どもセンター
2011年12月、子どもたちがのびのびと過ごせる空間的、または精神的な「居場所」づくりを目的として、移動型子どもセンター「走る! KnK子どもセンター」は陸前高田市で走りだしました。市町村の教育委員会から、震災後の子どもたちの放課後や長期休暇中の居場所がなく、集中して勉強できる場所がないと聞いたことがきっかけでした。
約4年間の活動で、のべ13,864名の子どもたちを受け入れた「走る! KnK子どもセンター」。陸前高田市内を走り続けた総距離は19,133km、日本からブラジルまでの距離に匹敵します。子どもたちからは「勉強バス/勉バス」と親しまれていました。
・「走る! KnK子どもセンター」2台
・運行地域 7ヵ所
・利用対象 小学1年生~中学3年生
・運行時間 平日16:00~21:00
・走る!KnK通信 発行回数 11回
ワークショップ
「子どもたちが将来に夢を持てない」と懸念する保護者や教育関係者からの声、そして自分の未来に対し「家が欲しい」「自分のスペースが欲しい」という現実的な願いが先行し、将来の夢を描きにくくなっている子どもたち―現地での活動をとおし、子どもたちを取り巻くこうした状況を確認したKnKは、被災地の子どもを対象に、もの作りによる自己表現の場や、第一線で活躍する人たちとの交流・職業体験の機会など、子どもたちが自由に将来の夢を描くきっかけを提供する活動を2012年から2015年夏にかけて行いました。
ワークショップ | 参加人数 | 子どもたちのがんばり |
---|---|---|
写真WS | 35名 | 使用したネガフィルム 70個 開催場所 2ヵ所 |
ポストカードWS | 32名 | 制作時間 7時間 カードお届け数 60通 |
ビデオWS | 5名 | 制作時間 40時間 成果物発行部数 30部 |
ファッションWS | 6名 | レポート作成時間 18時間 レポート発行部数 300部 |
インターンシップWS | 4名 | 「現在の山田町」 プレゼンテーション 45分 |
新聞WS(2013) | 19名 | 取材した場所 5ヵ所 新聞発行部数 206,911部 |
地元食材料理WS | 15名 | 使用した地元食材 11種類 配ったパンの数 約60個 |
新聞WS(2014) | 20名 | 8月9日(土)の「岩手日報」に掲載 |
ラジオWS | 3名 | 体験期間 約1ヵ月 |
新聞WS(2015) | 25名 | 市内7ヵ所の仮設住宅を巡り、 自分たちの新聞をポスティング |
合計 | 164名 | * * * |

ビデオワークショップ

ファッションワークショップ

地元食材料理(パン作り)ワークショップ

ラジオワークショップ

新聞ワークショップ

希望新聞
地域拠点の再建に向けて
住民の方々の心の拠り所となるよう、公民館やコミュニティセンターなど、地域拠点の再建を支援しました。
・再建した公民館/地域センター 13棟(大船渡市:11、釜石市:1、山田町:1)

岩手県釜石市「青葉ビル」

「青葉ビル」リニューアル記念式典(2012年4月)

岩手県山田町「田の浜コミュニティセンター」

「田の浜コミュニティセンター」開所式(2013年4月)
支援に従事したKnKスタッフ
2011年以降、共に活動した仲間たちです。大切な存在として子どもと接し、彼らから慕われていました。当時の子どもたちと今でも交流があるメンバーは、時折本部に彼らの成長した様子を嬉しそうに報告してくれます。
・岩手県沿岸部で活動したKnKスタッフ 14名(内、岩手県出身者11名)
・東京本部の事業担当者 6名
【当時のスタッフからのメッセージ】
*畠山理恵さん(走る! KnK子どもセンター/陸前高田市)
「走る!KnK子どもセンター」事業が終了した後は、以前センターを利用していた子どもの保護者の方に声をかけていただき、そこからずっと学童保育で働いてます。
当時子どもセンターに来てた子どもたちの活躍を、最近でも地元の新聞で見ますが、本当に強くたくましく成長していると実感し、とても頼もしく思います。その強さを持って社会にはばたいていき明るい未来を作っていくことを願ってます。そして、沿岸部の子どもたちの地元が落ち着く場所、帰ってきたい場所になるような街になればいいなと思います。
*菅野洋子さん(走る! KnK子どもセンター/陸前高田市)
センターで働いた事により、子どもたちと触れ合う楽しさ、一緒に成長できる事に対しての喜びを経験し、活動を終えてからも子どもたちに関わっていきたいという思いから、現在は放課後児童クラブ(学童)で放課後児童支援員として働いております。
震災時、小学生、中学生だった子どもたちは自立した大人になり、自身でこの町をどうしたいか考える機会もあることと思います。また町の復興に携わることが出来るようにもなっています。故郷で学んだ多くの事を活かし、故郷に寄り添い、そして故郷の未来を担っていく大人になってくれることを願っています。
*菅野陽子さん(走る! KnK子どもセンター/陸前高田市)
5年前に引っ越しをして、現在は岩手県内陸部の花巻市に住んでいます。今はニュース等で陸前高田の様子を見ています。震災から10年。復興を経てこれからが出発の新しいまちとして動き出そうとしている大きなエネルギーを感じる陸前高田が見えます。
私がスタッフとして関わらせていただいた当時の子どもたちの中には、今、大学生や社会人になっている子もいます。インスタで繋がらせてもらったりして(笑)不思議な感覚です。震災でたくさん泣いて、たくさん辛い経験をした子どもたち。何年経っても、その年毎に思う悲しみはなくならないけれども、みんなの中にいる大切な人や故郷への想いが、みんなの強さになり、生きる力になる事を信じています。
当時KnKバスで見せてくれた子どもたちひとり一人の笑った顔、泣いた顔や怒った顔、色んな顔をずっと憶えています。みんなは私たちの宝。これからも見守らせて下さいね。
*東洋平さん(KnK岩手事務所/釜石市)
2018年(平成30年)より釜石市役所で勤務しております。現在は、国際交流課に配属され、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の成功に向け、釜石市のホストタウン相手国であるオーストラリアとの交流等を担当しています。
釜石とオーストラリアの子どもたちをオンラインでつなぎ、自分たちの文化や日常生活等について意見交換等を行う事業を担当しました。その中で、釜石側の子どもたちのグループから防災について発表したいと申し出があり、オーストラリアの子どもたちに向けて英語で自分たちの経験や学んだこと、防災学習の大切さを伝えていました。震災当時、彼らは4~5才でしたが、その当時の様子を鮮明に覚えており、そして、震災を「悲しい出来事」としてのみではなく、10年たった今でも自分たちの経験を防災学習として、「いのちを守る」ものとして残していこうとしていることに感心しました。
地球温暖化の影響等により自然災害も激甚化する傾向を見せています。また、先日も東日本大震災の余震と言われる地震がありました。この子どもたちが伝える「いのちを守ること」「いのちの大切さ」が多くの方に伝わり、少しでも自然災害等で悲しむ方が減ることを祈ります。
*鎌田舞衣さん(KnK岩手事務所/釜石市)
NGOで働き続けています。KnKでの経験から、現場で働くスタッフと支援者を繋ぎたいと思うようになり、団体本部で支援者対応の任にあたっています。今の団体を選んだ理由にもう一つ、東北支援を継続しているという点がありました。2016年の事務所閉鎖に伴い現場を離れざるを得ませんでしたが、やはり東北被災地の子どもたちを見守り続けたいという思いがありました。岩手出身ということもあり、これまでは毎年沿岸部を訪れていましたが、昨年はコロナの流行で叶いませんでした。。
東日本大震災から10年。当時KnKを通じて出会った子どもたちは、大学生や社会人になりました。想像を絶する経験さえも受け止め、前に前に進み続けるエネルギーは眩しいくらいです。
楽しみ、悩み、泣き、怒り、笑うーーそんな子どもらしい時間を過ごす大切さを、私はこの10年見届けてきたように思います。忘れられない記憶や経験、今なお背負っている思いがあるのと同時に、時間が経つにつれて薄れゆくものもあるかも知れません。どちらもごく普通のことです。震災にがんじがらめに囚われることなく、自分の気持ちを大切にしていって欲しいです。
※その他、「走る! KnK子どもセンター」の専属ドライバーとして地元の方2名が子どもたちの安全を守ってくださいました。

2016年2月13日に行われた「走る! KnK子どもセンター」卒業合同交流会
国内外からの応援メッセージ
冒頭で書きましたように、震災翌日、私たちは何もわからない中で支援を行うことを決定しました。そして、まず取り掛かったのが、被災地で苦しい思いをされている人々に、「あなたがたはひとりではありませんよ」というメッセージを届けることでした。
・発信した事務局長メッセージ 9回(2011年3月14日~9月2日)
子どもたち、パートナー団体、そしてすべての皆さまへ
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KnKは医療やロジスティクスではなく、教育や子どものケアを専門とする団体です。その専門性を活かし、できる限り被災地の皆さまのお役に立ちたいとの思いで、3月16日ないしは17日より東北地方へニーズ調査に向かいます。
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まもなく、日本に春が訪れようとしています。日本各地で桜の花が咲きはじめるでしょう。
KnKの目標は、被災地でできる限りたくさんの子どものためのセンターを設置すること。
そしてできる限りたくさんの被災した子どもたちに、春の訪れを感じさせてあげることです。末筆になりましたが、改めまして皆さまのご支援に深く感謝申し上げますとともに、今後ともあたたかく支えていただけますことを、心よりお願い申し上げます。
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国境なき子どもたち(KnK)事務局長 ドミニク・レギュイエ
※当時、被災地支援の陣頭指揮をとったドミニク・レギュイエのインタビュー記事が、朝日新聞デジタル【特集】東日本大震災を語る(2021年2月25日)で紹介されています。
東北から伝える
KnKが従来から行っている「友情のレポーター」プログラムにおいて、岩手県沿岸部の子どもを対象に募集を行い、各国に派遣しました。
・海外で被災地の現状を伝えた「友情のレポーター」 5名

2011年友情のレポーター*フランス/岩手取材

2012年友情のレポーター*フィリピン取材

2014年友情のレポーター*ヨルダン/シリア難民取材

2015年友情のレポーター*フィリピン取材
・国内外で開催した東日本大震災の現状を伝える写真展/パネル展 26回以上(フランス、ベルギー、スペイン、イギリス、シンガポールでの開催を含む)
集まったご支援
国内外からたくさんのご寄付や物資のご寄贈をいただきました。
・寄付金総額 1,050,165,201円
ありがとうございました。
※内、15,180,514円は2021年以降の活動費として大切に使わせていただきます。
今後の活動
その他、現地からの依頼と支援金の残額に応じて柔軟に対応して参ります。
心を寄せてくださった皆さまへ
10年にわたり、これだけの支援を続けてこられましたのは、共に東北の子どもたちにお心を寄せていただき、ご支援くださった皆さまのおかげにほかなりません。
心から御礼申し上げます。
東日本大震災の発生から数年が経ち、今度は逆に国境なき子どもたちの海外活動地の子どもたちのためにと、マンスリーサポーターなどのご支援を始めてくださった東北の方々も少なくありません。そのお気持ちがとても嬉しく、ありがたく、感謝の気持ちでいっぱいです。
「子どもたちのために――」。
今後も、同じ想いを持つ皆さまと共に、「国境を越えてすべての子どもに教育と友情を」というビジョンの実現に向けて、歩んでいけますと幸いです。
どうか、これからもよろしくお願いいたします。
※ KnKの活動は、日本の皆さまからのご寄付で成り立っています。
子どもたちを支えるために、あなたのサポートを必要としています