子どもたちを見守る大人の思い ー 難民となった大人たちの声を聞く

子どもたちを見守る大人の思い ー 難民となった大人たちの声を聞く

2024.06.17

世界難民の日は、難民の人たちの存在をより多くの人にしってもらい、難民への理解を深めるために定められた日です。
当然、この日だけではなく難民の人たちは残りの364日もまた難民というステータスで暮らしているので、日々の難民の方たちの暮らしをより、日常の折々に思い出すことのできるようなきっかけづくりとなる日にしたい、と考えています。

この記事を読む大半の人々は、大人の方々でしょう。
子どもの変化には、側で見ている私もいつも、驚かされてきました。2012年にヨルダンにザアタリ難民キャンプが開設されてからの10年以上の年月を、子どもたちは自分たちの体と心の成長を通じて体現して見せてくれている、と感じます。
子どもたちへの教育支援を続けてきたキャンプでの事業では、子どもたちの様子や言葉を伝える機会はありましたが、子どもたちを守る側の大人の声をじっくり聞く機会を、あまり多くは作ってきませんでした。
成長を助け、愛しみながら子どもたちを見守る大人たちは、難民となってからの年月をどう捉えているのでしょう。
そこで、大人たちは、生活環境や自身の身の回り、そして自分自身におきた変化をどうみているのか、キャンプで働く学校の先生たちの声に耳を傾ける時間を作りました。

左から、インタビューに協力してくれたハルーン先生、ヤーセル先生、ムハンマド先生、アラー先生、フダ先生

生活環境の変化で誰もが口にするのは、住居の種類の変化、そして水や電気の話です。
テントからプレハブへの移行で、寒さや暑さ、火事といった事故などへの不安は解消されました。
また、以前は6、7世帯に1つだけだった共用の台所、トイレなどの水回りが各家庭に設置され、衛生もプライベートも守られる環境になりました。電気供給はいまだに1日8−9時間ではあるけれど、広大なソーラープラントがキャンプの脇に設置されたり、ソーラーパネルを屋根に設置している家庭が増えたりと、限られた電気との生活も少しずつ改善されつつあります。
住環境をめぐる改善が、ただ少しずつ便利に快適になった、ということだけではなく、暮らしの物理的な安心と安全を作ってきたことが伺えます。

しかし、住居となっているプレハブが支給されたのは2013年、2014年ごろで、もう10年近く経つプレハブは、雨季には雨漏りや床浸水、夏には強い風と壁を叩く砂塵によって老朽化が激しく、修繕が必要となってきている、という声もよく聞かれます。以前に比べて支援金も大幅に減少したことから、とっくに耐久年数を越えたプレハブから新たなプレハブに変えることはできず、難民の人たちの多くは、自ら直すことを余儀なくされています。

ザアタリ難民キャンプ(2022年)

紛争から逃れ難民となっても、人生の流れが止まることはありません。
2015年キャンプの中で結婚したハルーン先生は、今では8歳、6歳、3歳の子の父親となっています。
子どもを連れてキャンプにやってきた、アラー先生、ヤーセル先生、フダ先生はキャンプの中で新たに生まれてきた子どもたちとともに、仕事をしながら子どもたちを育ててきました。
4人の先生たちは、仕事でも、プライベートでも子どもとともに過ごしながら、皆口を揃えて不安を吐露します。
その不安とは、将来のこと。
一向に近い将来も見えない暮らしの中で、子どもたちの希望を絶やさずに暮らしていくことへの難しさも日々、感じ続けているのです。
確かに住環境は良くなりましたが、将来の見通しが立たない中で、仕事も見つけられない若者も多く、せっかく大学入試試験では大学入学資格を得られても、奨学金が取れずに諦める人たちも出てきています。身近な若者の中にそんな姿を見た子どもたちが、それでも学校へ通い続けるために、どのようなことを大人は提示できるのでしょう。

「シリアで取った卒業証書が安定した仕事を得るのにどれだけ役に立っているかを、子どもたちに話すのです」とヤーセル先生は自分自身の経験を伝えています。

それでも、「ずっとずっと、先の見えない運命について、考え続けています」そうハルーン先生は口にします。

ヤーセル先生による家庭訪問

授業の様子:ジャックと豆の木の物語の順番を考え中

先生たちもまた長らく第3国定住を求めています。
とにかく、ヨルダンにとどまるのではなく、国外に出て行きたい、そう願っていますが、コロナ禍に比べれば良くなったとはいえ、欧州の国々の難民政策が政権を揺るがすような課題となっている状況の中で、特別な医療へのアクセスが必要な人のいる家族や、障害のある人のいる家族が優先される中、なかなか順番が回ってこないのが現状です。
将来の見える生活の場を求めている、けれどもそれが叶わない状況の中、「努めて明るく考えていくことで、暮らしへのモチベーションを保っているのです」そうハルーン先生は語っていました。
モチベーションを保ち続けることの難しさは、大人もまた感じていることです。

KnKスタッフによる学校勤務の教員を対象とした心理ケアの研修

「確かに、自分自身のモチベーションを保つことは、とても難しいです。けれど、仕事はマスト、毎日きちんと働くこと、辞めずに働き続けることで、やる気を保っているのです」そうフダ先生は言います。
最近お父様を亡くして落ち込んでいたアラー先生は「それでも、わたしの子どもたちが成長していくことを見ていけるのは、何よりも素晴らしいことです」と、子どもたちの変化に喜びを見出していました。

アラー先生による音楽の授業(カタール校)

男子生徒とKnKスタッフ。両端は日本からの派遣員

過去には、国際NGOをはじめとしてさまざまなサポートがあったザアタリ難民キャンプも、国際社会の中での関心が弱まってくる中で、予算縮小が顕著になっています。
生活自体の改善は見られても、キャンプにいる状況は変わらない中、「子どもの成長は早く、思春期を迎えた子どもたちもいます。親だけではなく親類の誰かが子どもたちのよき話し相手や助言者としていてほしい、そうよく思いますが、親族がバラバラとなって異なる国々に住み、どこへも簡単にいくことはできず手助けも求められない生活は辛いです」そうヤーセル先生は話します。
「それでも、子どもたちには楽観的であってほしいと思っています」とやはり最後には、子どもへの願いをヤーセル先生は口にしていました。

縦割り班活動で一緒に体操をする子どもたちを見守るヤーセル先生(右端)

子どもの成長を見る喜びとともに、例えば、思春期の子どもたちの難しさ、家族だけではない大人の助けがほしい状況、日々の変化の乏しい暮らしの中でモチベーションを見出すことへの悩みなど、同じ大人として、たやすく想像できる思いを、インタビューを通してあらためて、知ることとなりました。

シリア人の先生たちのインタビューを彼らの傍でずっと聞いていたヨルダン人のムハンマド先生にもまた、質問をしてみました。自分の家がザアタリ難民キャンプのすぐ脇にあり、キャンプの学校に長く勤務してきたムハンマド先生は受け入れる側として、難民の人たちがきてからの変化をどのように見ているのか、気になったからでした。

「昔は違いを感じていました。けれども、時間を経るとともに友達となり、より身近に感じています。今では文化も食事も服も教育も、育てている植物も同じ、違いはなくなってきました。住む場所がキャンプの中かキャンプの外か、また、難民か難民ではないか、という違いは、もちろんあります。そして、シリアの人たちが市民となれるかどうかは、わたしにはわかりません。けれども、同じ土地に住む人同士、今では一体感を持っています」

ムハンマド先生とキャンプの子どもたち

ムハンマド先生の言葉は、示唆に富んだ大切な言葉のように響きました。
同じ地域に難民の人たちを受け入れ、同じ年月をともに過ごす。その時間と物理的な距離の近さが、ごく自然ななりゆきで、人の暮らしで必要なものごとを共有する機会を作り、人同士の関係性を構築していった過程を表していました。

難民の日に伝えたいことはありますか?という最後の質問に、フダ先生はこう答えていました。

「シリア危機が終わってほしいです。キャンプの状況、そしてキャンプがある状況自体がいいとは決して思えません。難民がいなくなる世界になってほしいのです」

 

(執筆者:ヨルダン/シリア難民支援 事業総括 松永晴子)

※これらの活動は、日本の皆さま及び宗教法人真如苑からのご支援ならびに国際協力機構(JICA)より草の根技術協力事業として業務委託を受け、実施しております。

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