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夢を語れない子どもたち/友情のレポーター(2023)

友情のレポーター(2023)としてバングラデシュを取材し、帰国した落合碧(おちあい あおい/11歳)さんより、滞在中の取材レポートが届きました。

 

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ほほえみドロップインセンター(DIC)

今日はほほえみドロップインセンター(DIC)に行った。DICはKnKが運営している施設だ。子どもが無料でご飯を食べたり休息したり教育を受けられる。
昨日はDICの子どもたちと一緒に遠足に行く予定だった。だけど私は体調不良で行けなかったので、今日初めて会う子どもたちと仲良くなれるか心配だった。DICは赤と白の塗装がされてあるビルの4階にあった。周りと比べて綺麗な建物だった。中に入ると、約20人の子どもたちがいた。遊んでいる子もいる。一人の子と目が合った。手を振ると、手を振り返してくれた。温かく優しい気持ちになった。バングラデシュの街では、歩いていると沢山の人が手を振ってくれた。それが嬉しかったから私もいろんな人に手を振るようになった。日本に戻ったら、少し恥ずかしいけど外国の人に、自分から手を振ってみようと思った。

DICが入っている赤い建物

荷物を置いて早速、施設の中を案内してもらった。DICの中には約40個のロッカーがあった。このロッカーに子どもたちの私物を入れる。路上で生活していると、自分の稼いだお金や服を置ける場所がない。誰かに盗られるかもしれないという状況は不安がつきまとう。

私は身近な人に自分の大事な物を勝手に捨てられてしまったことがあった。その後の「また捨てられるかもしれない」という不安な気持ちは、眠りを浅くし、私を常に緊張した状態にさせた。ロッカーがあることによって、安心した気持ちで生活できるのかもしれない。たった一つの小さなロッカーがもたらす安心感は、多分すごく大きい。

次に、休息をとる部屋を見た。何も物がなく暗く静かな部屋だった。まるで引っ越したばかりのようだ。10人くらいが床で寝ていた。寝ている子に私が近づいても、全く動かないほど熟睡していた。子どもたちは、たとえ夜でも路上だから、安心して眠ることは出来ない。だから日中に安全なDICで眠っているんだと思う。子どもたちが唯一安心して眠れる場所が、この部屋なのかと思うと、なぜだか心がザワザワした。

施設を一通り見終えると、ついに子どもたちとの時間がやってきた。遠い日本のことを少しでも知って楽しんでもらえるように、私はラジオ体操を披露して、みんなとやりたいと思い準備をしてきた。私がラジオ体操を披露すると、みんな最初は不思議そうな顔をしていた。でもラジオ体操のコミカルな動きもあり、段々と笑顔が広がり、楽しそうに一緒にやってくれた。緊張のせいで練習通りとはいかなかったけど、楽しそうな顔が見られて、私もとても楽しかった!面倒くさいと思ってやってきたラジオ体操も、こんなふうに活かせるなら無駄じゃなかったなと思った。ラジオ体操が終わると、今度はDICの子どもたちが、バングラデシュで有名な歌や、子どもたちが自分たちで作った歌、踊りを見せてくれた。カエルの歌くらいのゆっくりとしたテンポで、踊りは円になって身体を上下させながら回る不思議な踊りだった。言葉は当然分からないけど、すごく楽しい時間だったし、自分たちのために用意してくれたことがすごく嬉しかった。

それから、DICの子が描いた絵をもらった。男の人が片手に銃、もう片方の手にバングラデシュの国旗を持って川や林の中で笑っている絵だ。どんな意味の絵なのか見ただけでは分からなかった。絵を描いてくれた子は、今日はいなかったから、何を表現しているのか聞けなかった。いつかこの絵を描いてくれた子に会って、この絵の意味を聞いてみたい。

私たちが交流したあとはDICの子どもたちに向けて、健康や衛生についてのレクチャーがあった。私たちはその間は休憩していた。レクチャーが終わった後、7歳くらいの男の子がニコニコしながらやって来た。男の子は、私が持っていたメモ帳をトントンしていた。何を言いたいのか分からなかった。だけど、男の子が一生懸命ジェスチャーで自分の言いたいことを説明してくれたから、段々と分かってきた。サインを書いて欲しいのだと。私の名前を、漢字と英語で書いて渡してあげると、沢山の子どもたちが集まってきた。みんなサインが欲しくて集まってきたんだ。全員で30人くらいの子どもたちにサインを書いた。まるで有名人になった気分だ。みんなサインを貰って喜んでくれた。たくさんサインを書いたから疲れたけど、子どもたちの嬉しそうな顔は、私のことも嬉しくさせた。

レクチャー:食事の前は手を洗おう

子どもたちからサイン攻め

サインを書いたあとに、女の子たちと一緒にボードゲームをした。最初はルールが全然分からなかったけど、ジェスチャーで一生懸命教えてくれた。段々とルールが分かるようになってきた。ルールがなんとなく分かると楽しくなった。お互いに伝えたい、知りたいという気持ちがあれば言葉が通じなくてもコミュニケーションがとれるんだなと感じた。だけど、言葉が分かったらもっともっと色んな話が出来るのに。もどかしい気持ちだった。

DICでのお昼ご飯

そうして、お昼ご飯の時間になった。DICでお昼ご飯を食べた。みんなお昼ご飯の準備(ご飯を運んだり、テーブルを持ってきたり)を手伝っていた。45人分くらいの大量のご飯だ。メニューは、お米、魚カレー、人参といんげん豆とジャガイモのカレー。
私より小さい子も食べるご飯なのだから、そこまで辛くないはずと期待していたのだが、一口食べると…魚も、野菜カレーも、すごく辛かった。

インドカレー屋さんで父が食べる中辛のカレーよりもずっと辛かった。私はそっと周りを見渡した。私より小さい子が美味しそうに食べている。完食だ。とても驚いた。食後のお皿の片付けも、子どもたちは自分たちでやっていた。

手で食べるのが難しかった

みんな辛くないとは言うけれども…

食後に女の子たちがバングラデシュのダンスを見せてくれた。このダンスも日本では見たことがなく面白かった。1人が踊り出したら、2人目も踊り出し、2人目が踊りだしたら3人目も踊り出した。みんな笑顔でいつまでも踊っていそうなくらい楽しそうだった。私も一緒に踊ろうかと思ったけど、ダンスは苦手でラジオ体操レベルなので、やめておいた。でも、苦手でも下手でもいいから混ざったら良かったなと、今この文章を書きながら後悔している。

DICの子ども2人にインタビュー

ダンスが終わったあと、DICの子ども2人にインタビューをした。1人目はアブドラくん。12歳の男の子。

ここからはインタビューの内容を紹介します。

Q:好きな遊びは何?

カランボード
(四角いボードの4つの角に穴が空いていて、3センチくらいの丸く平たいプレートを、一回り大きいプレートで打って穴に入れるゲーム)
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Q:何の仕事をしてるの?

港で水を売っている
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Q:毎日どのくらい稼ぐの?

1日300〜400タカ
(日本円でいうと、約390円〜520円。一日に何時間も働いているのに、日本の最低賃金の時給の半分以下しか貰えていない)
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Q:稼いだお金は何に使うの?

半分は食事に使い、もう半分はオーナーさんに預ける
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Q:夜はどこで寝てるの?

ショドルガットのターミナルで寝ている
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Q:ターミナルで寝ていて音などで不快に思うことはある?

特に気にならない
(私は音がうるさいと全然眠れないのに!慣れてしまっているのかな)
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Q:学校には通っている?

7〜8年学校に通っていない
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Q:何で学校に行かないの?

学校に行きたくないから
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Q:何で路上生活になったの?

父がなくなり兄と暮らしていた時に、兄から暴力を受けていてそれが嫌で家を出た
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Q:路上生活をしている中で何か困っていることはある?

もう慣れたから困ってることはない
(慣れているということは、はじめはきっと沢山困っていたはず。慣れないと、生きていけなかったんだろう)
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Q:将来の夢はなに?

考え中
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アブドラくんは、私の質問に全部に答えてくれた。でも、質問をしている時はずっと下を向いていた。嫌な気持ちにさせているのではないかと私は不安になって、もっと色々聞きたかったけど言葉を飲み込んでしまった。

2人目は、シャティさん。15歳の女の子。

Q:何の仕事をしているの?

水を売っている
.

Q:好きなことは何?

チョコレートを売るのが好き
(シャティさんは水を売る仕事以外でチョコレートを売っているそうだ。私はとても驚いた。こんな遊びが好きとか、友だちと話すことが好き、とかそういう答えが返ってくると想像していたからだ)
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Q:1日にどのくらい稼ぐの?

200〜300タカ

(日本円でいうと260円〜320円だ。アブドラくんと同じ仕事をしているのに何でシャティさんの方が貰えるお金が少ないんだろうと、疑問に思った。働く時間なのか、男女差別の問題なのか)
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Q:稼いだお金は何に使うの?

食事や衣服を買ったり、時々港を取り仕切っている人にお金を払ったりする
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Q:何で路上生活になったの?

母が亡くなり父が再婚し、継母からあまり良い扱いを受けていなかった為家を出た
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Q:学校に行ったことはある?

学校に行ったことはない
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Q:学校に行きたいと思ったことはある?

昔は行きたいと思っていたが、継母が学校に行かせてくれなかったから諦めた
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Q:お父さんの家に戻りたいと思ったことはある?

戻りたいと思ったことはない
(お父さんの家にいる方が、路上で生活しているより金銭的にも環境的にもより良い暮らしができるのではないだろうか。それでも家に戻りたくないと思うほど、継母からひどい扱いを受けていたということなのだと思う)
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Q:将来の夢はなに?

将来の夢はない
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親にとって、大人にとって、子どもって一体なんなのだろう。なぜ全ての子どもが親に、大人に大事にされないのだろう。どんなに悪い子どもだって、大人に優しく温かく受け入れてもらいたいと思っているはずなのに。
二人からは、将来の夢を聞くことが出来なかった。私から将来の夢を聞かれて、どんな気持ちになっただろうか。私を遠い国のお金持ちの子どもに思っただろうか。両親に大事に愛されて育った子どもに見えただろうか。私は勇気がなくて、自分が育った暗い環境を二人に話すことが出来なかった。かわいそうだと思われたくなかったからかもしれない。

 

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4年振りの実施となった「友情のレポーター」プロジェクトは、日本の皆さまからのご寄付と以下の皆さまのご協賛、ご協力と助成により実現しました。

<主催>認定NPO法人国境なき子どもたち(KnK)
<協賛>シンガポール航空、国際ソロプチミスト東京-広尾
<協力>認定NPO法人Dialogue for People
<助成>公益財団法人三菱UFJ国際財団

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