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難民キャンプを出たシリア難民の子どもたち、その教育環境は?

2015/09/11
報告:現地事業総括 松永 晴子

ヨルダンに住むシリア難民のうち、8割以上がホストコミュニティと呼ばれる、キャンプ外の場所に住んでいます。

難民キャンプを出たシリア難民の子どもたち、その教育環境は?

ヨルダンでは、シリア難民の子どもたちも公立学校へ入学することができますが、受け皿となる学校の校舎に限界があることから、現在98校の公立学校が、午前中をヨルダン人、午後をシリア人の授業を行う二部制を採用しています。
ただヨルダン人シフトでは授業時間や授業数が減らされる、またシリア人シフトでは教員確保が難しく、質のまちまちな教員が現場で教鞭を取っているなど、二部制に伴う弊害が多いのも現状です。また、シリア人生徒のほとんどが、シリア、またはヨルダンで学校へ通えなかった時期があり、その期間もさまざまです。4年生と7年生のアラビア語の学力がほぼ同じという状況もよく見られます。またヨルダンでは1年生から始まる英語教育も、シリアでは5年生から、もしくは英語の代わりにフランス語教育を行っていた学校もあり、ヨルダンとシリアのカリキュラムの違いもシリア人生徒の学力に影響を及ぼしています。せっかく公立学校に登録できたのに、学力の遅れが原因で学校に通わなくなる子どもたちも出てきています。

 

シリア難民の子どもを受け入れる教師を対象とした研修

このような状況をふまえ、ホストコミュニティの事業ではこれら二部制の学校を対象に、アラビア語、数学、英語と基礎教科に焦点を絞った補習授業と課外活動の実施、また教育省と連携した教員研修を行っています。

今年5月までヨルダン北部のイルビッド、マフラックの計13校にて、補習授業を実施してきましたが、7月より、ヨルダン国内でもっともシリア人人口の多いアンマンへ事業地を移し、新たな教員を雇用して10校の二部制公立校にて、補習授業を開始することとなりました。

KnKによる教員研修。60人対象の講義でした。

60人を対象とした教員研修

7月末に1週間、教員研修を実施しました。
教育省から講師を招き、現場に立つ教員たちが基礎知識として知っておくべき子どもの人権、シリア人生徒に必要なカリキュラムの概要、効率的に授業を行うためのワークシート作成方法、アクティビティを用いた授業など、座学から実践まで、さまざまな内容を取り上げました。
参加した教員の年齢層、これまでの経験はさまざまでしたが、それぞれの年代が、経験や新しいアイディアを積極的に交換し合い、非常に有意義なものとなりました。

教育省講師による教員研修

教育省講師による教員研修

 

夏季補習授業で学力の遅れたシリア難民の子どもをサポート

8月初旬より、夏期の補習授業を開始しました。
夏期の授業では、より学力に遅れの目立つシリア難民の子どもたちに重点を置いて少人数制を採りました。
初日は初めて会う子どもたちに、教員もKnKから現場に送られているオペレーションサポートスタッフも少し緊張気味でしたが、それぞれのレベルにクラスを分け、課外活動に参加する頃には、笑顔が増え、はしゃぐ子どもたちの様子を目にするようになりました。

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アラビア語の授業の様子

課外活動中、ソーシャルアドバイザーによる講話。話を真剣な表情で聞く子どもたち

課外活動中、ソーシャルアドバイザーによる講話。話を真剣な表情で聞く子どもたち

休み時間に軽食を配るKnKスタッフ

休み時間に軽食を配るKnKスタッフ

オペレーションサポートスタッフは、対象10校で補習授業の運営を補助すると同時に、各校に配置されているソーシャルアドバイザーと共に課外活動を実施します。彼らは、生徒らが単純に遊ぶだけではなく、他者理解やライフスキルを身につけられるよう、活動の内容を充実させるための研修を受けてきました。補習授業を通じ、学業だけでなく心も成長させていけるよう、各学校で子どもたちのケアに力を入れています。

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絵のクラブ活動。集中して色塗りをしている4年生

 

難民キャンプを出て、ヨルダン地域社会で生活するシリア難民おかれた過酷な状況

キャンプでは、キャラバンやテントでの生活、決まった時間しか使えない電気、土漠の中で夏は暑さ、冬は雨や雪、そして日々繰り返される埃との戦い、本当に苦しい状況にあります。
ホストコミュニティでの暮らしにもまた、違う苦しさがあります。ヨルダン政府は、労働許可なしでの難民の労働を禁止しています。しかし、労働許可は決まった条件下でしか発行されず、日雇いや土木などの仕事に違法で従事せざるを得ない人も多くいます。さらに、8月からのWFPによる食料クーポン打ち切りを受け、生活に最低限必要な食料の調達も難しくなる一方です。
このようなシリア人家庭の状況を知る手がかりともなる家庭訪問を8月初旬より開始しました。コミュニティリサーチャーが家庭を訪問し、学校に通わせる保護者の理解を得たり、直接要望を聞いたりする機会を設けています。

家庭訪問で子どもから話を聞くコミュニティリサーチャー。

家庭訪問で子どもから話を聞くコミュニティリサーチャー

アンマンでの家庭訪問で特に目立つのが、引っ越しの多さです。ヨルダンに逃れてきた2~3年のうちに5回、6回と引っ越しをしているというのはよくある話です。どの家庭も家賃が払えず、より安い部屋へと移動します。多くの家庭は、アパートの半地下や一階にある狭い部屋で、使い古された作り付けの家具とともに暮らしています。

訪問したシリア人家族

訪問したシリア人家族

引っ越しの度、通う学校が変わり、移った土地でまた新たな人間関係を築いていかなくてはなりません。大人だけではなく、子どもたちにとってもこの暮らしはかなり辛いことがわかります。
対象校は限られているため、引っ越し先にKnKの補習授業を行う学校がある可能性は高くありません。補習授業を通じ、シリア人らに学校に通う・通わせる習慣が身に付き、引っ越し先でも、学校を通じて生活の場である地域コミュニティへスムーズに入っていけるよう、その環境づくりも行っていきたいです。

現在ホストコミュニティの事業は、教育省職員6名、学校のスタッフ70名、KnK現地スタッフ21名の大所帯で事業を運営しています。
補習授業の主な目的は学力向上ですが、子どもたちが学校という場に喜びや楽しみを見つけ、避難先の暮らしへ希望を見いだしていけるよう、これからも事業を続けていきます。

 

KnK写真展2015 「君とまた、あの場所へ -シリア難民の子どもたち-」

シリア難民の現状について、写真を見ることでさらに理解を深めてみませんか?
2015年9月17日から新宿で開催される写真展にぜひご参加ください。

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例えば9,000円で、ザアタリ難民キャンプのシリア難民の子ども1名が
約5ヵ月間、音楽などの情操教育を受けられます。
KnKへのご寄付は寄付金控除の対象となり、税制上の優遇措置を受けられます。

※ ヨルダン、ザアタリ難民キャンプにおけるKnKの活動は、認定NPO法人ジャパン・プラットフォーム助成金(イラク・シリア難民・国内避難民支援)の活用と日本の皆さまからのご寄付で成り立っています。

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【KnKヨルダン活動概要】

 

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