活動ニュース

シリア難民の子どもたちに教育を失った世代を作らないために

2015/02/27
報告:プロジェクトアドミニストレーター 鈴木泰斗
【シリア難民支援事業】

昨年9月の記事で補習授業の導入となる夏休みの活動を紹介しました。今回は2014年9月から始まっている補習授業の様子をお届けします。

2015年2月現在、ヨルダンにいるシリア難民は62万人を超え、そのおよそ8割の人々は同じ部族、親戚、友人などを頼って難民キャンプ外で暮らしています。難民の人々は経済的に困窮しているのみならず、さまざまな社会的サービスを十分に受けられず、国や団体の支援なしには生活できません。特に子どもたちは長い難民生活の中で学校教育から離れていたため、ヨルダンの学校の授業についていくのが難しく、辞めてしまう場合もあり、教育を失った世代が生まれてしまうことが懸念されています。
そこでKnKはヨルダンで難民キャンプ外に住むシリア難民へ向けた支援の一環として、2014年9月より、難民の多い北部の公立13校において進級を促進する補習授業の提供および学校教育強化事業を開始、状況の変化に伴い今月からは10校で活動を継続しています。

ヨルダンの教育が抱える問題

シリア難民の子どもたちはヨルダン公立校のカリキュラムの違いや教育を受けられなかった空白の期間があることで授業についていくことが難しい状況に置かれています。また、ヨルダン人の子どもたちも、シリア人生徒の流入に伴う学校の二部制導入(午前はヨルダン人クラスで午後がシリア人クラス)による教育の量と質の低下で、学習に遅れが生じています。さらに、トラウマや不満を抱えるシリア人とヨルダン人の間の軋轢が高まっており、学校内外でいざこざやけんかも増えています。これらが総じて子どもたちが学校を中退する大きな要因となっています。

補習授業

補習授業はシリア難民に理解のある先生によって、明るく楽しい雰囲気で行われています。子どもによって難民生活の長さが異なるため、教育レベルや学習進度に大きな差が存在することやヨルダンとシリアの教育カリキュラムの違いなど、授業を行う上で難しい部分も多いですが、先生たちはさまざまな工夫をして授業を行っています。KnKの補習授業では、子どもたちは主要科目であるアラビア語、英語、算数、理科を勉強しながら、各授業の合間にさまざまなアクティビティを行っています。アクティビティは子どもの継続した補習授業への参加促進を目的としており、同時に厳しい生活の中のストレスや避難時のトラウマなどを軽減する役割もあり、子どもたちにとって生活の励みになっています。

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女子校でのアラビア語のクラスの様子。アラビア語は大変難しく、正しい文法を学ぶためには母国語の人でも継続した教育が必要であると言われています。
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男子校の小学校。男子校は共学や女子校に比べて、にぎやかな雰囲気です。元気いっぱいの子どもたちは体を動かして遊ぶのが大好きです。

アクティビティ

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左:男子校の小学校でのサッカーをしている子どもたち。ヨルダンではサッカーが一番人気のスポーツで寒い中でも子どもたちは楽しんでいます。
右:女子校の小学校での塗り絵とお絵かきのアクティビティ。子どもたちは皆思い思いの色で塗って、見せ合っていました。

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こちらは共学の小学校。KnKのスタッフが考えたボールを使ったアクティビティの様子。アクティビティは楽しむだけが目的ではなく、しっかりと列を作り順番を守ったり、他の友だちと協力して物事に取り組んだりと、社会性を学ぶ機会になっています。

補習授業の活動における問題と課題

最近では難民をキャンプ内で管理したいヨルダン政府の意向でキャンプ外に住むシリア難民への支援が減り、彼らの生活はますます厳しくなってきています。今後、近隣国の情勢や難民受け入れ制度の変更などでヨルダンに更なる難民流入が起こり、教育システムへの負荷がさらに高まることも予想されています。
また、シリア難民の急激な流入の結果、ヨルダン国内の物価や家賃が上昇しており、シリア難民だけでなくヨルダン人の生活も圧迫しています。ゆえに、家族を支えるために親の仕事の手伝いをしたり、小さな兄弟の面倒をみたりするために補習授業に参加できない子どもや満足に食事をとれていないため授業に集中できない子どももいます。さらに、難民の人々はなるべく安い家賃の家を選ぶため、家は学校から遠く、家自体もあまり快適とは言えません。家賃を抑えるためにひとつの家に数家族で暮らす場合もあり、劣悪な住居環境や日々のストレス、加えて、夏の厳しい暑さや雪の降るような寒さで病気になる子どもも少なくありません。
遠くに住んでいる子どもは交通費や悪天候により休日のKnKの補習授業に参加することが難しく、さらに、地域によっては登下校の際にシリア難民に対して差別やいじめもあり、学校に通うことをやめてしまう場合もあります。このような理由から、KnKでは学校から遠い場所に住む子どもや治安のあまり良くない地域を対象に補習授業に参加するための交通手段を提供することを検討しております。

補習授業の成果

9月から始まった補習授業は参加している子どもやその家族から好評を得ており、現場の先生方からも補習授業のおかげで多くの子どもたちの成績が伸びたと評価されています。実際、子どもからは「補習授業のおかげで遅れた分を取り戻せて、通常の授業についていけるようになった。」「勉強が楽しくなった」「補習授業の先生たちはみな優しいので授業が楽しみ」など、授業の効果を実感している声を聞くことができました。また、補習授業の中で子どもたちは国籍に関わらず交友関係を築き、相互理解を深めている様子が見て取れました。
また、アクティビティによって、今までふさぎ込んでいた子どもが明るくなり、社会性を取り戻したという声も家族や先生方からあがっており、アクティビティによる子どもの心のケアや成長も実感できました。

子どもたちを取り巻くリスクを未然に防ぐために

シリア難民の子どもたちはトラウマやさまざまな不安を抱えながら、不安定な精神状態で暮らしています。子どもたちは早期結婚、児童労働、麻薬、差別やいじめなどのリスクに常にさらされており、小さなことでも道を踏み外してしまう恐れがあります。そのような状況の中で休日に補習授業を行うことは、子どもへの教育支援のみならず子どもをそれらのリスクから保護する役割も担っています。

KnKは今後も引き続き、キャンプ外に住むシリア難民の子どもたちに対して、一人ひとりに寄り添うような形で彼らが必要としている支援を行っていきたいと考えております。
皆さまの温かいご支援、ご理解をどうぞよろしくお願いします。

※ ヨルダンにおけるKnKの活動は、認定NPO法人ジャパン・プラットフォーム助成金(シリア紛争人道支援)の活用と日本の皆さまからのご寄付で成り立っています。

子どもたちを支えるために、あなたのサポートを必要としています


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例えば9,000円で、ザアタリ難民キャンプのシリア難民の子どもが1名が約5ヵ月間、音楽などの情操教育を受けられます。
国境なき子どもたちへのご寄付は寄付金控除の対象となり、税制上の優遇措置を受けられます。

 

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