2016/02/03
報告:KnKスタッフ 熊本 晃順
国境なき子どもたちは、日本を含むアジアから中東まで、「子ども」と「教育」をキーワードに支援活動を続けています。中東では、ヨルダンでシリア難民支援を行うほか、パレスチナそしてイラクでも活動を行っています。
イラク国民の10人にひとりが安全な住処を失っている
2015年は、報道で「難民」という言葉を見聞きすることの多い1年となりました。
越境する「難民」に対し、同じ国内で避難生活をする人を「国内避難民(IDP: Internally Displaced People)」と呼びます。
イラクでは、ISILの勢力拡大により、現在までに320万人もの人々が住む場所を追われ、国内での避難生活を余儀なくされています。
これはイラク総人口(約3340万人)の約10%に相当し、日本に置き換えるといかに深刻な事態であるか理解していただけるのではないでしょうか。
私たちは、2014年末にイラクで調査を行いました。そこで、避難生活を送る子どもたちが、日々のストレスから暴力に走りがちであることを知り、イラク北部のエルビル県にて、心のケアとなるスポーツ活動を提供しています。
2016年1月、再度渡航したエルビルでは、多くの変化を確認しました。
テントだった家々は仮設住宅(キャラバン)に変わり、子どもたちは避難先の学校に編入できるようになりました。そして、テントに埋め尽くされていた広場は、子どもたちがスポーツを楽しみ体を動かせる場所として整備されていました。
スポーツに参加する子どもたち、また彼らを見守る大人たちからは、「スポーツができるようになり、ストレスが発散できるようになった」「思いやりや協調性が身についた」という声があり、支援活動のインパクトを見ることができました。
勉強に集中できない。父親の収入が断たれた。
しかし、家庭訪問をしたアントニオ(17歳)はこのように話しています。
「学校にも通えるようになったけど、プレハブの校舎なので、夏は暑くて冬はとても寒いです。クラスの人数も多く、机も椅子も足りていないので、なかなか勉強に集中できません」
またアントニオのお父さんは「もともと住んでいたカラコッシュでは電気屋を営み、月に数千ドルの収入がありました。でも今は仕事が見つからず収入はなくなりました。アントニオの兄たちが仕事をし家計を支えてくれています」
アントニオは、「今高校2年生ですが、もうすぐ学校をやめて働こうと思っています。この先どうなるかわからないし、いつカラコッシュに戻れるかもわからない。今は家族の助けになりたいです」と話します。
IDP、国内避難民となってしまった子どもたち、そしてその家族にとって、2015年は支援による安心と将来への不安が常にせめぎ合う1年となりました。
このような緊急事態では、子どもたちの教育のアクセスが途切れてしまうほか、子どもの居場所がなくなり、人身売買や武力勢力へ取り込まれる危険性も高まります。
このような危険性から子どもの保護することは、支援において非常に大きな意味を持ちます。
私たちは2015年に継続したスポーツ活動をパートナーである教会へ引き渡し、事業は彼らにより自主的に運営されることになりました。
そして今後は、エルビル内で子どもたちが安心して集える居場所を作り、心のケアと同時に学習もできるスペースとしての活用を考えています。
あまりに大きな「難民」問題の前に、IDPの存在はなかなか見えづらくなっていますが、KnKはイラクの子どもたちに寄り添い、このような事態においても共に歩めるよう支援を続けてまいります。
つながっている、日本とイラク
岩手県大槌町の子どもたちが製作した、イラクの子どもたちへのメッセージ。
ここエルビルに届き、さっそく子どもたちの小さな手のひらが桜の花を咲かせました。
※ KnKのイラクでの活動は、ウエストフランス・ソリダリテからのご寄付ならびに日本の皆さまからのご寄付で成り立っています。
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