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開設から8年、バングラデシュ「ほほえみドロップインセンター」の今

報告:KnKスタッフ 三喜 一史

国境なき子どもたち(KnK)は、バングラデシュの首都ダッカにあるショドルガット船着き場周辺にいるストリートチルドレンを支援するため、「ほほえみドロップインセンター(DIC)」を2011年に開設しました。2018年末までにのべ約69,000名のストリートチルドレンをDICで受け入れてきましたが、今回はこれまでの成果と今後取り組んでいきたい活動についてご報告いたします。

経済発展による都市部への人口集中

バングラデシュでは近年高い経済成長を達成しており、貧困層も減少しているものの、都市部と農村部の経済格差は依然として拡大しており、仕事を求める人々の都市部への人口流出が続いています。バングラデシュの地図を見ると河川がとても多い印象を持たれると思います。船やフェリーといった乗り物が比較的身近な移動手段として使われており、DICのあるショドルガット船着き場にも全国から多くの人々がフェリーに乗ってやってきます。忙しい船着き場周辺において、あちこちに子どもがいることに気づきます。川辺で何かを拾っていたり、決して衛生的とは言えない川に飛び込んで遊んだり身体を「洗ったり」、疲れ切った様子で路上に寝ている子、また、大きなペットボトルを何本も背負って歩いている子どもを見かけます。圧倒的に男の子が目立ちますが、もちろん女子も多く見かけます。

多くの人が通勤で船を利用する

彼らは一人もしくは同年代の友だち数人と行動していますが、親や保護者は近くにはおらず、大人に見守られている様子もありません。話を聞いてみると、子どもたちの多くは学校や家庭での虐待、親との死別、貧困などを背景に家庭にいることができずに家を出て働きに出たと言います。もちろん、住むあてや場所もなく、路上で生活しながら他のストリートチルドレンからの情報を頼りに職を求めて色々なところを転々としています。そうした中で行きついたのがダッカのショドルガット船着き場というわけです。

ストリートチルドレンを取り巻くリスク

先ほど述べた大きなペットボトルを背負っている子どもを始め、ショドルガット船着き場にいる多くのストリートチルドレンは働いています。ペットボトルを背負っている子は捨てられたペットボトルを集め、それに水を入れ、販売しているそうです。何人かの子どもたちと一緒に働いており、彼らをしきっているのが「雇用主」の大人です。雇用主から寝床を提供されることもあるようですが、無い場合には橋の下やフェリーのチケット売り場のある建物の中、もしくはターミナルからそれぞれの船へと続く桟橋の端などが主な寝場所となります。最近では船着き場に人が住まないようにと地元警察による取り締まりが強化され、ターミナルで寝ていると「手荒く」追い出されるとのことです。寝る場所が限られたことで子どもたちの中にはフェリーの淵、車で言うところのバンパーのような部分で寝ている子もいるそうです。

このような形で生活し働いている子どもは多く、水売りの他、スナックを売ったり、ゴミを集めその重さによって換金したり、フェリーを含む船の修理や工事などの仕事をしています。稼いだわずかな収入を使い、売店などでスナック程度の軽食を買い空腹を満たしているのです。不衛生な食事や住環境、ケガの危険性がある仕事、保護者不在の中での非行や薬物の誘惑など、多くのリスクが子どもたちを取り囲んでいます。薬物に関しては、手に入りやすいことに加えて(最近はあまり聞かなくなりその理由は後述しますが)以前は雇用主が子どもたちに疲れを感じさせないようにと薬物を与えていたとのことです。疲れを忘れさせた上で長時間働かせ、加えて子どもたちに対する暴力も絶えなかったと言います。

ペットボトルを集める水売りの少年たち

このような状況下にあるストリートチルドレンを支援しようとKnKは2011年よりDICを開設しました。

ほほえみドロップインセンター活動内容

開所時間:平日の9時から17時 (来所者数:1日平均40名)

  • 食事の提供:栄養バランスが考えられた朝食と昼食を提供しています。

  • 基礎教育クラス:新聞からの情報収集や(騙されないよう)給与計算ができるようになるための読み書き計算の学習機会を提供しています。

  • 啓発活動・ライフスキルセッション:自分の身を守るための知識として安全や前述のような彼らを取り巻く危険なことなどについて学ぶクラスを実施しています。

  • 日中の睡眠場所の提供:夜通し働いている子や喧騒の中、熟睡できない子のためにマットレスや毛布を準備し、安心して睡眠が取れる場所を提供しています。

  • シャワー・洗濯場所の提供:不衛生な食事や環境の中で子どもたちは病気や皮膚病などに罹ることも多く、食事だけでなく、身なりを清潔に保つこともとても大事なことであるため、シャワーや洗濯ができる場所の提供を合わせて行っています。

  • 応急手当:風邪や熱などの病気、皮膚病を患った子どもたちに対する応急手当を行っています。滅多にありませんが、あまりに症状が酷い場合には近くのクリニックに同行することもあります。

毎日40名程の子どもたちがDICに来所しますが、上記の活動に加えて、子ども同士でゲームをしたり、テレビを見るなどして子どもらしい時間を過ごすことができています。また、子どもたちへの直接の支援だけでなく、子どもたちと関わることの多い雇用主ら大人たちに対しても子どもの権利や、子どもたちの身近にあるリスクについての理解を深めてもらう啓発活動を行っています。

昼食の準備をするスタッフ

活動開始から8年、子どもたちを見守る「目」が増えてきた

活動を続けて8年近くが経ちましたが、DICに通い続けている子には体重増加など身体の成長が見て取れ、また、皮膚病などの病気にかかりにくくなっているなどの効果も見ることができました。先ほど書いたように、以前は雇用主が子どもたちに薬物を与えたり、暴力を振るうなどと言った報告が子どもたちからもありましたが、雇用主を始めとした大人たちへの啓発活動を行ってきたことで、改善されてきたとのことです。また、地域の大人たちも子どもたちが薬物を使用していると注意するなど、子どもたちを見守る「目」も増えてきたといいます。大人たちも大人たちで自身の幼少期に同じように悲惨な状況下にあったため善悪を考えず同じように子どもたちに接していたと言います。しかし、自分たちが子どものころ、嫌な思いをしたことも事実であり、同じことを今の子どもたちにしなくていい/してはならないと理解してくれる雇用主も増えました。

子どもたちが農村部などからショドルガットにやってきてDICに来るようになるまで概ね3~4ヵ月かかるそうです。残念ながら、その短期間の間に薬物に手を出したり、非行に走ってしまう子もいますが、DICで学ぶことで自分の問題を認識し、更生しようと努力するそうです。善悪の区別がまだつかない、そして教えられてこなかった彼らに何が大事なのかを教えることもDICの大切な役割なのです。

居住型の施設ではないため、夜間に安心して眠れる場所を提供できないなど、まだまだ多くの課題があります。このエリアで活動していた他団体が財政状況により支援を中止するなど、子どもらしく過ごせる場所が少しずつ減ってきています。DICの存在がより重要になってきていると考えています。

今、子どもたちに必要な支援は?

理想ややりたいことはたくさんありますが、今は我々ができることを一つずつ地道に取り組んでいきたいと考えています。その一つとして職業訓練機会の提供があります。約8年間活動を行ってきたことで継続してDICに通ってくる子どもも増えました。10代後半になり、大人の一歩手前に来ている子も増え、健康面の向上や社会性を身につけることなどができました。一方、今のDICの活動内容だけでは、成長した彼らには物足りないのではとも感じ始めました。彼ら、彼女らの将来の選択肢を少しでも広げることができるようにと現在は青少年に対して職業訓練の機会を提供できないか模索しています。DIC内で技術訓練を提供するわけではなく、これまで地域で築いてきた関係を活かして個人でビジネスをしている人々に協力を仰ぎ、いわゆるOJT(On the Job Training)形式で訓練の場を提供してもらえないか試みています。子どもたちも仕事があるので毎日DICに来られるわけではなく、現地スタッフも次にいつ来るかわからないため、計画的にそして継続的に就労相談などをすることができないと言った課題もあります。移動性が高い、というのも継続的な訓練を考えた時にリスクになると考えています。いつ他地域に移ってしまうかわからない状況の中、訓練を継続して行っていける、最悪受け入れ先にも大きな迷惑をかけかねないことを考えるとこの職業訓練機会の提供も一筋縄ではいかないと想像しています。勤労観を養うなどの準備をしっかり行い、また、何か問題があればすぐに相談できるようなスタッフとの信頼関係を築き、本人がステップアップを意識し続けられるよう彼らと関わっていければと思います。「手に職」をつけ、彼らにとってより安定した仕事に就けるようになることを思い描いています。また、年内もしくは来年の始めにでも良いご報告ができるよう、現場スタッフ共々頑張っていきたいと思っております。

▼ドロップインセンターの子どもたちに100日分の食事を贈るキャンペーンを実施中。ぜひご参加ください!(~3/14)

 

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【バングラデシュ活動概要】

 

 

 

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