活動ニュース

失われた命、新しい命

報告:KnKスタッフ 真嶋 忍

10月14日の夜中、国境なき子どもたち(KnK)の若者の家で避難生活を送るアイリーンさん(25歳)の陣痛が始まった。KnKの現地スタッフが近くの病院へ連れて行くが、専門医がいないとのことで受け入れてもらえることができない。遠く離れた病院にやっとたどり着いたのは深夜の3時。元気な女の子が生まれたのは、その直後のことだった。
母親に似てとても小さな女の子は、父親のベンハミンさんの名に似せてベルナデスと名づけられた。台風「ケッツァーナ」の襲来から18日目の朝、700名近い生命が奪われたマニラ郊外の被災地で、ひとつの新しい生が誕生した。安堵と共に久しぶりにアイリーンさんは笑顔を見せた。ここまでたどり着けて本当に嬉しい、と彼女は言う。

赤ちゃんに微笑みかけるアイリーンさん。

家族4人で。

「9月26日の午前十時頃、近所の人たちが“逃げろ!逃げろ!”と叫ぶ声で目が覚めました。気づくと家の中は水びたしでした。」
「家の中に水がどんどん入ってきたましが、いつも雨が降ると浸水してくるので、逃げるなんて大げさと思っていました。しかし30分位して水が胸位まで上がってきました。逃げようと思いましたが家の外に出ることができませんでした。必死に柱にしがみついていたら義兄が助けに来てくれました。そしてその瞬間、大量の水が私たちの家を押し流していってしまったのです」

アイリーンさんの家があった場所。跡形もなく流されてしまった。

アイリーンさんは、カロオカン市バゴンシーランに夫と2歳の息子と3人で生活していた。周りにある木材でどうにか家を建てるほど質素な暮らし振りであった。ここでの暮らしに見切りをつけ田舎へ移り住むことも考えたが、アイリーンさんは夫とこの土地で生活する決心をしていた。長男も生まれ、貧しく苦労をしながらも幸せな日々を送っていた矢先だった。夫のベンハミンさんは早朝から仕事へ出ていたが、台風が激しくなったため家族が心配になり急いで帰宅をした。しかし、そこにあるはずだった家はなく、家族もどこかへ消えていた。家族が再会したのは翌日だったという。
「今でも悲しいし自分たちの無力さが身にしみる。だけど私たち家族はこうして助かったし、ベルナデスも無事に生まれてきてくれた。ベルナデスが大きくなったら、台風で多くの人が亡くなったこと、家族の生活が大変であったこと、そしてKnKが助けてくれたことを伝えたい。KnKの若者の家が受け入れてくれなかったら、私たち家族はどうして良いか分からなかったし、ベルナデスも無事この世に生まれてこれたか分からないのだから」

夫のベンハミンさんを一瞬見つめた後、アイリーンさんは少し照れながら続けた。
「いつか新しい土地で安定した生活を送りたい。それまではもうしばらく国境なき子どもたちの若者の家で、避難生活を続けさせてもらいたいです」

ベルナデスは、スタッフの間で“プリンセスKnK”と呼ばれている。元気な泣き声が、今日も若者の家に響く。

ここに、新たな命が生まれた。

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