報告者:パレスチナ現地代表 福神 遥
私たちがヨルダン渓谷で実施している若者へのTraining of Trainers (ToT)のうち、今までにイニシアティブ、子どもとの向き合い方、美術、音楽の研修についてご報告しましたが、今日は演劇の研修と活動についてご報告いたします。
演劇の研修では、誰でも簡単に出来るゲームの紹介を中心に、若者たちが子ども向け活動を実施する際、すぐに使える技術を学べる場となりました。
演劇の研修と聞くと、発声や演じることについて習うことを想像してしまいがちですが、研修の講師を担当したThe Freedom Theatre(フリーダムシアター)のラニン先生は、体を使ったゲームやアイコンタクトの取り方、想像力を膨らませたり、体を使って思いや場面を表現することなど、「演劇」を広く学べる研修を提供してくださいました。
The Freedom Theatreは、ジェニン難民キャンプにシアター兼文化センターを持ち、海外公演を含むプロフェッショナルな演劇公演やコメディショーの上演の他、プロの役者を目指す若者向けのトレーニングを提供しています。また、サマーキャンプなどの子ども向けの演劇活動や女性向けの演劇ワークショップなども行っています。イスラエル軍の侵攻が日常的に続くジェニン難民キャンプにおいて、彼らは文化的な活動を通して様々なメッセージを発信、アーティストたちを育ててきました。ラニン先生も、フリーダムシアターで学んだ1人であり、現在は役者や舞台監督として、また子ども向け活動の担当として、パレスチナだけではなく海外でも広く活動されています。

ラニン先生(左)

ラニン先生(左)
ラニン先生が研修中に教えてくださり、研修中は若者たちが盛り上がり、その後の子ども向け活動では毎回子どもたちに人気のゲームをいくつかご紹介いたします。
反射神経を競うゲーム
1. 円になって並び、左手は胸の高さで手のひらを上にして左側に広げ、右手は人差し指を下に向けて、同じく胸の高さで右側にセットします。この時、自分の左手は、左隣の人の右手人差し指が手のひらの真ん中に来るように、右手は、右隣の人の左手の真ん中に来るようにセットします。
2. 先生が「3,2,1」と声をかけ、「1」の時に、自分の左手は隣の人の右人差し指をつかむように、右手は右隣の人につかまれないように上に上げます。
とてもシンプルなゲームですが、右手でつかまれないようにするのと左手でつかむようにするのとを同時にやるのは難しく、盛り上がるゲームです。ものすごく集中するので、集中力を、そして声と同時に動くので反射神経を鍛えることができるゲームでもあります。


鬼ごっこバージョンアップ
1. 左手を後ろに回し、背中に手の甲をつける形でセットします。
2. 右手は人差し指を指す形にします。
3. この状態を保ったまま、鬼ごっこのように周りの人をタッチするのですが、タッチするときには、右手の人差し指で相手の背中にある左手をタッチします。
鬼ごっこのように1人に追いかけられるのではなく、周りにいる人たち全員が鬼であり、自分も鬼という状態で、常に背中に気を遣いながら、逃げたり人を追いかけるため、横歩きのようになったり、周囲をきょろきょろしたり、とても楽しいゲームです。
隣の人が答えるゲーム
1. 円になって並び、質問の担当者は円の中に入ります。
2. 質問担当者は、円になって並んでいる人の前に立ち、アイコンタクトを取って質問をするのですが、アイコンタクトを取られている人は答えてはならず、右隣の人が代わりに自分の答えを言います。
ルールをわかっていても、目の前に人が来て目を見て質問をされるとつい答えてしまったり、右隣の人も、答えるときに自分の答えではなく左隣にいる人(質問されているように見える人)の答えを答えてしまったり(例えば自分が20歳で隣の人が19歳の時、「何歳?」と質問があり、隣の人が答えないと「19歳」と言ってしまう)。逆説的に、人と話す際に必要なコミュニケーション「その人の前にいく、アイコンタクトをする」ということを楽しく学べるゲームです。
アイコンタクトを学べるゲーム
1. 人数よりも1つ少なくフラフープを置いたり椅子を並べたりして、鬼以外の人に居場所がある状態でゲームをスタートさせます。
2. 鬼以外の人たちはアイコンタクトを交わし、目が合ったらフラフープや椅子を離れて、相手の場所に移動します。
3. この移動のタイミングで鬼はどちらかの場所を取りに行き、場所に収まれなかった人が次の鬼になります。
声を出したり手を振ることなく、目の動きだけで相手と呼吸を合わせて自分の居場所を交代しなくてはならず、相手が座ったままなのに自分は立ってしまったり、あからさまにアイコンタクトを送ると鬼に気付かれてしまったり。これも何気なくコミュニケーションを学べるゲームです。
研修期間中には、フリーダムシアターで学ぶ青少年と一緒に研修を受ける時間を設けました。一緒に研修を受けることでお互いに刺激を受けたり、またヨルダン渓谷とジェニンという離れた地域に住む同世代の人たちと繋がりを持ち、今後の活動にも活かすことを目指し、若者たち全員でジェニンに行きました。残念ながら、若者たちがジェニンに行った日にもイスラエル軍の侵攻がジェニン難民キャンプにあり、フリーダムシアターでの研修は安全を確保できなかったため、急遽ジェニン市の子どもセンターに協力していただき、センターで研修を行いました。ペアを組み、お題に合わせて体で表現し、他の人たちがお題を当てるという研修やゲームの紹介を行った時には、フリーダムシアターの青少年とヨルダン渓谷の若者たちはあっという間に打ち解けて、笑いが絶えない研修となったそうです。この時の様子を聞いて、イスラエル軍の侵攻が続き、恐怖や怒りで気持ちがいっぱいになってしまいそうな時でも、仲間たちと研修に集中して、声をあげて笑い、一緒の時を過ごすことの大切さを、改めて学んだ気がします。

アートセラピーについても学んだラニン先生は、音楽に合わせて絵を描いたり、思いを体で表現する活動についても教えてくださいました。リラックスし、自由に思いを表現することで、自分自身を理解したり、癒す効果もあるそうです。

演劇の研修は、みんな真剣ながら常に笑いが起き、ポジティブでエネルギッシュな時間となりました。研修が始まったときには、すでにガザでの戦争が起き、フリーダムシアターがあるジェニン難民キャンプでも毎日のようにイスラエル軍による侵攻が起きている中、常に前を向き、人と適切な形でコミュニケーションを取り、そして一瞬一瞬を楽しむことの大切さを学ぶ時間にもなったのではないかと思います。


研修を受けた若者たちは、上記で紹介したゲームを中心に、実際の子ども向け活動でも、楽しく笑いが起きる活動を届けています。





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