報告:パレスチナ現地代表 福神 遥
KnKがヨルダン渓谷で実施している若者へのTraining of Trainers (ToT)のうち、今までにイニシアティブ、子どもとの向き合い方、美術の研修についてご報告しましたが、今日は音楽の研修と活動についてご報告いたします。
音楽の研修は、美術の研修と同様、若者たちが地域で子ども向け活動を実施するために必要な知識や技術を学べる場として、実際の活動案をたくさん学べる研修になりました。
日本では、小学校や中学校に音楽の授業があり、音符や音階を習いますし、様々な楽器を演奏したり、合唱大会や演奏会でみんなで作品を作り上げる経験もできますが、パレスチナでは、学校によっては音楽の教員がおらず、音楽の授業が一切ない学校もあります。私たちが活動するヨルダン渓谷の村の学校も、ほとんどの学校には音楽の教員がおらず、音楽の授業はありません。もちろん、音楽を学んだことがなくても、若者たちは普段から曲を聞いたり口ずさんでいますし、タブラやアルグル(アラブの縦笛)など伝統的な楽器を演奏する人もいますが、研修に参加した若者のほとんどが、今まで楽器を触ったり、音楽を習ったことがない人たちでした。
研修の講師を務めたのは、Al Kamandjatiのイブラヒム先生です。Al Kamandjatiは、音楽を通して、子どもたちの創造性やパレスチナ人としてのアイデンティティ、表現の自由などを高めることをビジョンとし、海外も含む各地でのプロフェッショナルなコンサートの開催や、プロの演奏家から子どもたちまで、幅広く音楽を学べる教室や活動を提供しているパレスチナの団体です。パーカッショニストであり、タブラ(アラブの太鼓)奏者であるイブラヒム先生は、子どもセンターや難民キャンプの学校で子どもたちに音楽の活動を届けており、私たちの音楽研修では、子どもたちが楽しめる活動のアイディアをたくさん教えてくださいました。
研修では大きく3つのこと①ボディパーカッション ②打楽器を使ったゲーム、リズム遊び③歌遊びと歌唱 を学びました。
ボディパーカッションでは、音符についての基礎的な知識も学び、音符に合わせて手や足で音を鳴らしたり、〇や□を描いて、音を出すところと出さないルールに沿ってリズム遊びをしました。楽器は、タンバリンやカスタネットや、ドラムのスティックなど、誰でも簡単に音が鳴らせるものを用意し、ボディパーカッションの時と同じようにリズム遊びや、簡単な演奏を学びました。歌遊びと歌唱では、パレスチナ人が毎日のように聞いている、レバノンの歌手フェイルーズの曲をみんなで歌ったり、外国の歌を輪唱しました。取り扱った歌のひとつ、ガーナのChe Che Kuleは、マラカスやドラムのスティックで音を鳴らすパートと、歌を歌うパートがあり、若者たちにも、子どもたちにも人気の歌になりました。日本のCMでも使われていたことがあり、ご存知の方もいるかも知れません。
イブラヒム先生は、子ども向け活動の中で、どういう時にどんな内容の活動を提供すればいいか、単純なゲームでも、どんな意味があり、どんなことを子どもたちに感じたり学んでほしいか、ただ楽しい音楽の活動だけではなく、ひとつひとつの活動には意味や役割があることも教えてくださいました。背景にある意味や役割は、先生が直接若者に伝えたり、みんなで考えたり発表する時間を設けたのですが、いくつかの例をご紹介します。
ボディパーカッションやリズム遊びは、1人ですることも出来ますが、同じリズムを全員で合わせて叩けば、チームワークや協調性を学ぶ機会になります。数人ずつのチームに分けて、決まった拍数の中でどんなリズムを叩くかをチームごとに決めて練習し披露すれば、創造性を学び、友だちと協力し合うことや、自分の意見を言うこと、また人前で発表する力を身に着けることもできます。
楽器を部屋の中央に集めて、1人ずつ楽器を取りに行き自分の席に戻るまで楽器の音を鳴らしてはいけない、というゲームは、楽器の「音が鳴る」性質を逆手に取り、子ども向けの活動中に子どもが静かにしないときに誰でも使えるゲームとして、若者が子ども向け活動を届ける中でよく取り入れています。楽器によっては、持っただけで音が鳴ってしまうマラカスなどもあるので、子どもたちはまず楽器を真剣に選び、順番を待つ子どもたちも、小さな音でも聞き逃さないように静かに友人を見守ります。
子どもたちがとにかく元気いっぱいの時には、音が鳴っている間は、走ったり跳ねたりしてひたすら体を動かし、音が止んだらその場で静止する、もし静止の時間に動いてしまったらゲームの輪から外れるゲームも、簡単なゲームではありますが、体を動かしたり、音をよく聞いたり、ただ楽しく簡単なだけではない、意味を持つゲームです。
音楽の活動を子どもたちに届けてくださいと言われても、なかなかハードルが高いと思われてしまいがちですが、「音」「リズム」「体」といった、私たちにとってとても身近なキーワードを使いながら、まずは若者自身が楽しく音楽を学べる機会を作り、ハードルを低く、誰でも簡単に子ども向け活動に音楽を活かせるよう、アイディアがたくさん詰まった研修になりました。実際に若者たちは、子ども向け活動だけではなく、青少年向け研修の時にも、ワームアップやちょっとした休憩中のゲームとして、よく音楽のゲームを取り入れています。
最後に、研修で扱い、若者たちにも子どもたちにも、そして私たちKnKスタッフにも人気の歌をご紹介します。日本は合唱の文化が盛んで、学校でたくさんの子ども向けの歌を習いますが、日本と比べるとパレスチナでは子どもが友だちと声を合わせて歌えるような歌がそんなに多くありません。そんな中研修で扱った「Oh This World يا هالعالم」は、研修中には歌詞を覚えながら全員で合唱(斉唱)し、子ども向け活動では、歌詞の意味を考えながら歌う、みんなが好きな歌になりました。Al Kamandjatiで学んだ子どもたちが歌い、演奏するこのPVは、私にとっては、ビデオの中のジェニンの街並みや子どもたちの日常、表情と、現在のパレスチナの様子と歌の歌詞が繋がり、パレスチナで子どもや若者に関わる1人としても、大事な歌となっています。
※パレスチナにおけるKnKの活動は、外務省「日本NGO連携無償資金協力」の助成、ならびに日本の皆さまからのご寄付で成り立っています。
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