報告:パキスタン事業担当 村松さやか
もうすぐ東日本大震災から14年が経とうとしています。3.11以降も自然災害により多くの尊い命が犠牲となりました。
パキスタンもまた毎年のように深刻な洪水やモンスーン、干ばつによる災害に見舞われています。2022年には、大洪水により3,300万人の人々が被災し、国土のおよそ3分の1が浸水しました。家屋をはじめ、学校や病院などの公共施設が破壊され、食料不足や主な収入源となる農業も大きな被害を受けました。現在も多くの人々の生活が脅かされ、未だ復興とういう言葉さえ遠い存在に感じます。
当時KnKでも被災状況の報告を受け、同国で以前より開始していた女子教育向上の事業と並行して、緊急支援活動を実施しました。被災した地域は貧困率がおよそ80%を超える農村地域が大部分を占めています(注1) 。貧困という既存の課題を抱え続けている中で起きた自然災害の影響は、人々をさらに苦しい状況に追い込んでいきました。
こうした中で子どもや女性は脆弱な立場に置かれ、ジェンダーに基づく暴力(以下GBV、身体的また性的暴力)は増加し、児童労働や早期結婚のリスクがさらに高まる傾向があります (注2)。また災害の影響を受けた女性たちは、収入を得るための農作業を失い、家事や水を汲みに行くことも、さらに家から遠くまで行かなくてはならなかったりします。少女たちもまた普段の手伝いからさらに負担が増え、学校を休まなければならなくなります。こうした状況により、家計を支えていくための手段として、もしくは、収入の不安定さが増すことを考え、娘たちの安全のために児童婚を選択するケースがあるのも現状です。
女性や少女たちの中には、避難先で性的暴力を受けたり、失業した夫のストレスから家庭内暴力を受けるケースもあります。習慣的な価値観として深く根付く男性がすべての意思決定の権限を持つ社会で、どれだけの女性や少女たちが助けを求められたでしょうか。こうしたGBVや強制的な児童婚のリスクの予防や対策として正しい情報を得て自らがそのリスクを認識しなければ、女性や少女たちは犠牲になり続けてしまうのです。しかしながら、パキスタンの農村部では教育による男女の格差は大きく女性の識字率や就学率は非常に低いことが現実です。KnKの事業地でも男性の識字率(10歳以上)は37%に対し、女性8%と報告されています。
KnKは、学校再建や地域全体へ女子教育への理解と社会課題の正しい情報を発信し、少女たちが安心して学校に通えるよう活動を継続し社会が少しずつ変化をしていくことを願っています。また現地団体や地域、政府機関と連携をし、GBVなど被害を受けた、またはリスクを感じる女性や少女たちを適切な支援へ繋げるためのしくみを確立することも重要だと考えます。年々深刻化する気候変動に対しては、ジェンダーに配慮した災害対策を計画し、予防や回復力を取り入れた持続可能なコミュニティを構築していきます。
災害時によるジェンダーの影響は遠い国のことではありません。東日本大震災女性支援ネットワークの調査 (注3)によると、「震災後、ジェンダーの格差の可視化・表面化や、女性の客体化、性暴力への許容度が高まる、災害対応に関する意思決定の場に女性が参画できず、女性の声が届かない」などの課題が挙げられました。ここでは「“女性や子どもたちの脆弱性”とは、決してもろさや弱さではなく、社会文化的な要因によって、 安全や健康、尊厳、権利などが脅かされやすい立場(に置かれている)である」という説明がありました。
私自身、東日本大震災の復興支援活動に取り組んだ時期に同じようにジェンダーの格差を感じました。変化する地域とそうでない地域とでは、やはり女性たちも含めたまちづくりができたかどうかということも、ひとつの大きな要因だったのかと思います。今パキスタンの事業に取り組みながら、日本の課題であることを改めて意識していきたいと思います。

事業地の風景

ゲームをして和やかな様子
注1:Pakistan Institute of Department Economics rr-multidimensional-poverty-in-pakistan.pdf (pide.org.pk)
注2:UN Migration https://environmentalmigration.iom.int/blogs/how-disasters-have-gendered-impacts-climate-migration-and-what-youth-can-do-about-it-case-pakistan
注3:内閣府男女共同参画https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/kansi_senmon/wg03/pdf/giji_06-2.pdf
※ パキスタンにおけるKnKの活動は、外務省「日本NGO連携無償資金協力」の活用、ならびに日本の皆さまからのご寄付で成り立っています。