報告:パキスタン事業担当 村松さやか
こんにちは。パキスタン事業担当の村松です。先日パキスタンの現行事業「女子の安心安全な学校へのアクセス改善と教育の質の向上」の事業地、バロチスタン州の農村部へ初めて訪問させていただきました。事業地はKnKの事務所がある首都のイスラマバードからおよそ1,000km離れたところに位置しています。
パキスタンは、国民の3分の1以上が貧困ライン以下で生活をしており、本事業地のバロチスタン州では、多次元貧困率は70%と切迫しています。その中でも地域間の格差が激しく都市部は44%、農村部では80%の住民が深刻な貧困状況に陥っています。
またパキスタンは学校に通っていない子どもの数も世界で2番目に多い国とされています。バロチスタン州の女子の非就学率は59%、男子38%、識字率(10歳~)は女子29%、男子61%とジェンダーの格差が表れています。
事業地の農村部ではさらにこの格差が広がり、女子の教育の機会がさらに奪われていることがわかります。その背景には女性・女子に意思決定の権限がないことや家事手伝いが優先されること、保護者の女子教育に対する意識の低さ、強制的な児童婚(パキスタンの18歳未満の6人に1人)などが挙げられています。
さらにパキスタンは気候変動に最も脆弱な国として世界で5位に位置付けられ、気候の脅威の中でさらに不安定な中で生活をしています。このように年々深刻化する気候変動の影響が貧困地域を襲い、女子が学校に通えない状況になっているのです。

洪水や老朽化により使えなくなった学校
ここまでは、私が事前に情報をかき集め学んだ知識と現地スタッフからの情報で、本事業の視察へと向かいました。
雨季も猛暑も終わり少しずつ過ごしやすくなったと聞いていた事業地は、私たちにとってはまだまだ真夏。炎天下の中、町には安全な飲み水はなく、子どもたちや水牛が農業用の水路の濁った水(塩分や石灰、またゴミなどが混じった汚染された水)で水浴びをしたり、洗濯をする姿を目の当たりにしました。
各家にトイレがないこともまれなことではないようです。中には30分ほどかけてトイレの施設があるところまで歩いていかなければならないという家庭もありました。事業地の貧困状況は想像以上で、人々が生活する基本的なリソースがこんなにもないものかと、呆然としてしまいました。
パキスタンは国内政治が不安定で、経済面でも苦境に陥っており、近年国民や外国人が被害に巻き込まれる事案が増え、治安が悪化しています。本事業地のバロチスタン州も外国人が地域に入るには、厳重な警備を必要とされ、事前の手続きの他、私たちの視察にも常に治安部隊や警察が同行しなければなりませんでした。そのこともあってか、長期的かつ地域の持続性を考慮した支援を求める現地の声に応える海外の団体は少ないようにも見えました。
実際、私たちもこの事業地での活動の難しさを感じましたが、だからこそKnKパキスタンチームやローカルパートナーと協力してなんとしてもその声に応えていきたいと改めて思いました。
そして視察した現行事業の学校再建状況は、8月に続いた猛暑(1番暑い時期は60℃弱でゆで卵ができるくらい)やモンスーンの影響が重なり、作業が困難となり一時遅れも見られましたが、早朝や深夜に作業することで現在順調に進行しています。現在は、教員への研修や女子生徒による女子教育の啓発活動、地域へ向けたワークショップなども実施され、訪問先の子どもたちや先生たちは学校の完成を心待ちにしています。
日差しの強い中、私たちを歓迎してくれたキラキラとしていた子どもたちの目や笑顔とは逆に、湿気と風の通らない崩れそうな教室では、目がうつろな生徒たちの姿もありました。

通路で授業を受ける子どもたち

湿気と熱気の中で授業を受ける様子

覚えたてのアルファベットを披露してくれた生徒

結成された学生クラブの子どもたち
老朽化や洪水により破壊された学校は、災害に強い仕組みを取り入れた学校に生まれ変わります。土台のかさ上げや、壁の断熱、風の通りやすい教室、ソーラーパネルの設置によりファンを使用することで、暑さや災害から子どもたちを守ることができます。
また今後は緊急時にも周辺の地域住民も避難所として利用できるよう、女子が安心して通える学校づくりとともに、持続可能なコミュニティを築いていきたいと思います。
この道のりはまだまだ長くなりますが、これからも目で見て肌で感じたことをお伝えし、この記事を読んでいただいた皆さまにお届けしていきたいと思います。こうした厳しい環境の中でも、今回パキスタンの人たちの優しさと温かいホスピタリティに触れ、さらにパキスタン愛が強くなった村松でした。
※ パキスタンにおけるKnKの活動は、外務省「日本NGO連携無償資金協力」の活用、ならびに日本の皆さまからのご寄付で成り立っています。
子どもたちを支えるために、あなたのサポートを必要としています
5,000円で、5人の青少年が1ヵ月間、学校に通えます。
KnKへのご寄付は寄付金控除の対象となり、税制上の優遇措置を受けられます。
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