こんにちは。パレスチナ事務所の福神です。
本日は、現在日本で公開中の映画「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」をご紹介いたします。
映画の舞台は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区ヘブロン県のマサーフェル・ヤッタです。
イスラエル軍による暴力的な占領政策が続くこの地の日常をカメラに収めたドキュメンタリー映画で、パレスチナ人2人(バーセル・アドラー、ハムダーン・バラール)とイスラエル人2人(ユヴァル・アブラハーム、ラヘル・ショール)のジャーナリスト・活動家が監督を務めています。映画を撮ろうとして撮影した映像ではなく、日常を映した映像が繋がって映画になったような作品であり、第97回アカデミー賞では、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しています。
https://www.transformer.co.jp/m/nootherland/
先日、監督の1人であるパレスチナ人のハムダーン・バラールは、イスラエル人入植者に襲われ、その後イスラエル軍に拘束され、釈放されました。また、数日後には、近くのジンバ村でも、イスラエル軍が見守る中、イスラエル人入植者によるパレスチナ人への暴力的な攻撃がありました 。
私も、映画の舞台であるマサーフェル・ヤッタやその周りの村を訪れたことがありますが、入植地がパレスチナ人の村に隣接するように作られ、イスラエル軍が道路に検問所を作ってパレスチナ人の移動を制限している様子を実際に見たことがあります。イスラエル軍兵士と入植者による攻撃は日常的に起こっており、人が撃たれて亡くなる、家を追い出される、軍に拘束されることが、普通に起きています。私も実際に、「煙が目につくという理由でパン工場が壊された」「子どもたちが遊ぶ公園に武装した入植者が来て、遊具で遊んだ後に遊具を壊した」「入植者によって井戸が埋められた」といった話を聞きました。

マサーフェル・ヤッタの辺り

ウンムアルヘイル。すぐ奥に見えるのが入植地
映画を見ている間ずっと、実際に訪れたマサーフェル・ヤッタで見聞きしたことや、私が西岸で体験していることを思い出し、考えていました。
この映画の特筆すべきところは、監督を務めたのが、パレスチナ人2人・イスラエル人2人であることだと私は思います。この地に生まれ育ったパレスチナ人と、そこに通い、記録を続けるイスラエル人です。ヨルダン川西岸地区とガザ地区に住むパレスチナ人は、イスラエル軍からの許可証がない限り、イスラエル、あるいはパレスチナ自治区にあるイスラエル人入植地に入ることは出来ません。また、イスラエル人は、民間人はガザに入ることは出来ず、ヨルダン川西岸の場合、幹線道路やイスラエル人入植地にはイスラエル人は入れますが、エリアA のパレスチナ人居住地に入る道には、「ここから先はエリアAであり、イスラエル人が入ることはイスラエルの法律違反であり、あなたにとっても危険です」といった看板があり、入域を制限しています。

エリアA(パレスチナ人居住地)に繋がる道の前にあるイスラエル人向けの看板
こうした状況では、パレスチナ人にとっては、西岸で出会うイスラエル人は、兵士と入植者であり、自分たちの家を奪い、攻撃をしてくる、対等に話ができる相手ではなく、イスラエルに住むイスラエル人にとっては、西岸に住むパレスチナ人は遠い存在か、兵役の任務中に出会う敵、という関係性になってしまいます。
この映画の監督を務めた2人のイスラエル人は、パレスチナ人の村に入り、彼らの家に泊まり、一緒に食事をとり、イスラエル軍が壊した家を一緒に直し、自国の軍の暴力行為をカメラに収めているのです。また、映画の中のマサーフェル・ヤッタに住むパレスチナ人たちは、日常的にイスラエル軍や入植者からの暴力的な攻撃を受けながら、村にやってくるイスラエル人の人たちを受け入れ、一緒に行動しています。監督たちには、それぞれに、「裏切り者」「利用されているだけ」といった声や、ひどいと殺害予告までが届いていると聞きます。
私にも、パレスチナ自治区に入り、活動したり、パレスチナ人と友人関係を築いているイスラエル人の友人や、彼らと友人関係を築いているパレスチナ人の友人がいますが、裏切り者と言われたり、地域の中での信用をなくしたりすると聞きます。彼らと話すと、大変な経験をしつつ、それでも貫く平和や共存への意思を強く感じることがあります。
終始、希望がないように見える映画ですが、この映画がイスラエル、パレスチナ両方の監督によって作られたことには大きな意味があり、より多くの方たちに見ていただきたいと思う映画です。もし機会がありましたら、ぜひご覧になってみてください。
注1:https://www.972mag.com/jinba-pogrom-israeli-settlers-soldiers/
注2:ヨルダン川西岸地区の行政・治安権限区分け。
エリアA:行政・治安ともにパレスチナ自治政府、エリアB:行政パレスチナ、治安イスラエル軍、エリアC:行政・治安ともにイスラエル軍