ヨルダン事務所派遣員の内山かおりです。
前回の掲載でご紹介したとおり、ヨルダンに着任してから分かっていたようで分かっていなかったこと、知っていたようで知らなかったことに数多く直面しています。だからこそ、自分は何も分かっていないのだと認識し、日常に疑問をもち、もっと世の中について知ろうとする努力をはじめました。
着任してから疑問をもったことの一例としては、ヨルダンの建物についてです。ヨルダンには石造りの四角い建物が多いです。モスクや教会は円形屋根だったり、三角屋根だったり、それぞれの特徴的な形を有していますが、一般のアパートや商業ビル、オフィスビルは四角いです。古い建物が四角いのはもちろん、新築の建物も大半は四角く、街を見渡すと視野の9割は四角いです。ヨーロッパの三角屋根や、アフリカの近代ビルと土壁の家が混在した様子と比べると「味気ない」というのが着任したころの率直な感想でした。

四角い建物が立ち並ぶヨルダンの街並み
そこで、なぜこんなにも四角い建物が多いのだろうと疑問をもちました。その結果、四角い建物を建設する理由は、土地やスペースの有効利用というほかに、地面につくる日陰や隣接する建物に対してつくる日陰の面積を最大化し、暑い日差しの中で涼しく過ごすための工夫であること、降雨量が少ないため屋上の利用が活発であること、砂漠が多く木材が少ないため梁の使用や曲線を描く建設が難しいことが分かりました。さらに、ヨルダンを含むアラビア半島の大半はかつて海だったことから、比較的柔らかく加工に向いた石灰石が産出されることも、石造りの四角い建物が建設される理由の一つだということが分かりました。

四角い建物がつくる日陰
このように建物が四角い理由について書き並べてみると当たり前のことばかりで、一つ一つに大きな驚きはありませんが、四角い建物への疑問からその土地の気候や、人々の生活の様子、産物、歴史までをうかがい知ることができたのは楽しい発見でした。そして、四角い建物には人々の知恵や土地柄、歴史が凝縮していることが分かってからは、それらが味気ないものから、素敵なものに見えてきました。今では涼しい日陰を歩くとき、その面積を最大化してくれている四角い建物に感謝の念すら抱くようになっています。
他にも、ヨルダンに着任してからアラビア語の学校に通い、日常会話(アンミーヤ:ヨルダン方言)を学びはじめたなかで疑問をもち、面白かったことがあります。
アラビア語は動詞の活用が多く、現在形だけでも「私」、「あなた(男性)」、「あなた(女性)」、「彼」、「彼女」、「私たち」という6つの主語ごとにそれぞれの活用形があります。つまり、1つの動詞を覚える度に、覚えるべきことが6つずつ増えていくので、暗記力と多大なる復習時間が必要となります。また、動詞だけでなく多くの場合、名詞も「単数」、「双数」、「複数」でそれぞれ形が異なります。つまり、「りんご」という単語を覚える場合、「1つのりんご」「2つのりんご」「3つ以上のりんご」という形を覚える必要があり、1つの名詞を覚える度に、覚えるべきことが3つずつ増えていきます。
その動詞の活用及び名詞の数による変化を知った最初のころは、その覚えるべき単語の多さに心が折れそうになりました。そして、そんなに覚える必要があるのか、そもそもなぜそんなに形が変わるのか疑問をもちました。その結果、もともとアラビア語はベドウィン(遊牧民)たちの間で口頭で伝承されてきた言葉であり、より少ない単語数で話を正確に伝える必要があったということが分かりました。つまり、「彼はりんごを2つ食べる」という文は日本語では「彼は・りんごを・2つ・食べる」という4つの節から成り立ちますが、アラビア語ではそれぞれの単語が主語や数を説明するので、「食べる(「彼」活用)・2つのりんご」という2単語を並べるだけで状況の説明が可能になります。覚える数が多いからこそ、一度覚えてしまえば最小限の単語数で話すことができるということです。この言葉の多さは、移動しながら各地で多くの情報交換をする必要のあったベドウィンたちの知恵なのだと気づいたとき、その先人の知恵に感動を覚えるとともに敬服しました。それからは、単語を複数覚えることが苦ではなくなり、むしろ当時の情景を思い浮かべながら楽しく覚えられるようになりました。
これらの四角い建物や、アラビア語から学んだことは、疑問をもつことで物事への関心と理解を深め、「つまらない」や「きつい」と思うことも好きなことや面白いことに変えられる可能性があるということです。せっかくの人生、つまらないことやきついことに囲まれるよりも好きなこと、面白いことに囲まれていたいなと思います。だからこそ、これからも些細なことにも疑問をもち、知識を深めて好きなことを増やしていきたいと思っています。
毎日新たな発見があり、知識が増えている現在、この世界がもっと面白いものに見え、以前よりももっとわくわくした気持ちで日々を過ごしています。もちろんこの世界には、知れば知るほど悲しい気持ちになったり、うんざりしたりすることもありますが、それでも総じて言えばこの世界は楽しいものであり、今まで以上に世界を好きになりました。だからこそ、もっと自分が好きになれる世界にしたいし、多くの人が好きになれる世界にしたいと思います。
では、そんな世界をつくるのは誰かというと、それは子どもたちなのだと思います。10年後、20年後、50年後の社会に生き、この世界をつくっているのは子どもたちですから。では、今の大人たちができることはなんでしょうか。すべきこと、果たすべき責任はなんでしょうか。それはきっと、その子どもたちがより良い世界をつくれるように下準備をすることなのではないかと思います。その下準備とは、環境汚染、気候変動、貧困、保健・衛生、紛争などの様々な問題の改善であり、子どもたちが安全かつ健康に夢をもって過ごせる環境をつくることです。
そして、その下準備のためのアプローチは様々ですが、私はその中で、子どもたちに一番距離の近い「教育」というアプローチを選びKnKで働くことを決めました。このアプローチの中で、子どもたちが学ぶ喜びを知り、世界の面白さに気づき、もっと楽しい世界にしていこうと思うようになったら嬉しいです。
夢ばかりが大きくふくらみ、実際の仕事はまだまだ不慣れなことが多いですが、子どもたちが楽しい世界を自分たちの手でつくることができる日がくることを願いながら、これからも精一杯下準備に勤しんでいきます。






