スタッフ日記 認定NPO法人国境なき子どもたちブログ

見守り続けるシリア人教師の想い

こんにちは、海外事業部の加藤です。

シリア紛争が始まって6年目に突入、最近では、シリアで空爆を受けた5歳のオムラン君が話題となり、昨年トルコの海岸にうち上げられたアイラン君を引き合いに、シリアに残っても、避難しても、その先に待っている悲しい現実に改めて思いを馳せた方も多かったかと思います。

紛争が終わる明るい兆しがなかなか見えない中、緊急支援では終わらない、より中長期的な支援が必要となっています。KnKが2013年より難民支援を行っている周辺国ヨルダンでも、ザアタリ難民キャンプの中長期的な戦略計画(2017-2020)が発行されるなど、キャンプがあと数年は運営され続けることがより現実味を帯びてきています。

キャンプで避難生活を続ける子どもたちの様子に変化はあったのでしょうか。KnKがザアタリ難民キャンプで活動を開始した当初から授業を担当してきたシリア人の先生2名とのインタビューをご紹介させてください。

【Anas先生、演劇担当】

2013年と現在を比べて、授業で教える生徒に変化はありましたか?

2013年に授業をスタートした時には、ほとんどの生徒がキャンプに到着したばかりでした。
内戦によって避難してきたというショックが大きく、学校で勉強することや学校の先生への関心が保護者や生徒を含めて全くありませんでした。また、避難してきた誰もが、ザアタリでの生活は長くても1~2ヵ月で終わる一時的なもので、またすぐにシリアに帰れると信じていました。そのため、教育への関心は高くありませんでした。

 

学校が開校されて直後、授業を待つ沢山の生徒(2012年)

学校が開校されて直後、授業を待つ沢山の生徒(2012年)

殺風景だった教室(2013年)

殺風景だった教室(2013年)

 

そのような混乱した状況の中で演劇の授業を担当していましたが、自分は先生としてどんな環境下でも子どもたちに学校に来てもらうことが一番だと考えていました。また、良い環境で授業ができること、生徒が学校に関心を持って通ってくれるようになることを最優先に考え、行動してきました。

その後、現在に至るまで、キャンプの中のあらゆるものがシステム化され、生活に関する不便や課題は多いものの、少しずつ混乱は収まってきました。月日が経つにつれて生徒たちもだんだんと落ち着くようになり、これまで学校に関心が無かった生徒たちも、今では先生や学校が好きだと言い、良い授業を実施できるようになっています。

生徒たちが抱えている課題などはありますか?

キャンプに到着当初は、「1週間で帰れる」、「1ヵ月で帰れる」と信じていたものが、「3ヵ月で帰れるかも」、「あと1年も経てば帰れるかも、、」と、避難生活がだんだん長引くにつれ、今となっては紛争終結に向けた解決の糸口が見えずに、生徒たちが将来に向けての希望を持てないでいることが一番の課題だと感じています。

 

今では、先生たち自らで作った小道具やデコレーションで彩られる

今では、先生たち自らで作った小道具やデコレーションで彩られる

演劇のストーリーを丁寧に説明するAnas先生

演劇のストーリーを丁寧に説明するAnas先生

【Ammar先生、作文担当】

2013年と現在を比べて、授業で教える生徒たちに変化はありましたか?

2013年の授業が開始された当初は、生徒たちは完全に受身の状態でした。自発的・積極的な姿勢は見えず、すべてに関して言われたこと以外はやらない様子でした。また、紛争下で逃げてきた子どもの中には、ストレスのはけ口として学校に向けて石を投げる子や、キャンプ内で起こる全てのことに怯えている子もいました。授業開始3ヵ月後に少しずつ状況が良くなってきたものの、誰もがすぐにシリアに帰れるという希望を持っていたこともあり、真剣に授業を受ける生徒は少なかったです。

それから現在に至るまで、キャンプ内の環境はだんだんと整備され、授業に積極的に参加する生徒も多くなってきました。今では、キャンプ内の環境が少しずつ良くなって子どもたちが落ち着きを取り戻し、積極的になったことを活かし、授業はより楽しくする工夫をしています。反対に、子どもたちが暗い感情になっているときは、サッカー・ウード(アラブの伝統楽器)・キーボード等も活用しながら、少しでも学校で楽しめる時間を提供しています。

一方で、さまざまなニュースやSNSを通じた情報が、そのまま子どもたちの感情を左右させています。例えば、停戦合意や和平会議があるというニュースが流れると、生徒たちも期待して良い感情を持つことができる一方、〇〇で空爆や親戚の〇〇が亡くなった等のニュースが流れると、生徒たちも気分が落ち込むなど、影響が見られています。

授業の進め方には何か工夫がありますか?

作文の題材は、過去のことについてばかりではなく、将来の夢や目標・なりたい職業について選ぶなど、授業を通じ、将来へ希望を持ち、未来へ目を向ける機会にするようにしています。子どもたちの中には、どうしても自分の体験や経験・想いを話したがらない子もいます。その際は、誰かと話を共有したいグループと、あまり共有したくないグループに分けて、話したがらない生徒には、個々に少しずつ話をさせたり、グループ内でペアを作って話をさせたりするなど、少しずつ体験を共有できるように配慮しています。

積極的に話しかけ、生徒との距離を縮めようとするAmmar先生

積極的に話しかけ、生徒との距離を縮めようとするAmmar先生

ただ、本当に嫌だという生徒に対しては、理由をじっくり聞いて解決策を探ることにしています。他のケアが必要だと判断した場合には、他団体の支援を紹介しています。

これまで、先生たちが子どもたちの様子を温かく、かつ細やかに見守りながら、その時の子どもの様子に適当な方法で授業を提供してきたことが伝わってきます。息の長い支援が必要になってくる中、これからも、先生と一緒に、子どもたちに寄り添った支援を行っていきたいと思っています。

 

堂々と演じる生徒の様子

堂々と演じる生徒の様子

 

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【KnKヨルダン(シリア難民支援)活動概要】

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