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教育で心の選択肢を豊かに/コラム:安田菜津紀さん

【国境を越えて】広げよう!子どもの権利条約キャンペーン

コラム:教育で心の選択肢を豊かに
安田 菜津紀 氏/フォトジャーナリスト

国境なき子どもたちが派遣する「友情のレポーター」の1人として、私がカンボジアを訪れたのは2003年、16歳の夏休みのことでした。今でも脳裏に焼きついている光景があります。タイからカンボジア側へと徒歩で国境を越えようとしていた時、赤ちゃんを抱っこした小さな女の子が私たちに近づいてきました。身振り手振りで「お金をちょうだい」と訴えていることが分かりました。それまで物乞いをする子どもに出会ったことがなかった私は、お金を渡した方がいいのか、それは失礼な行動ではないのかと、ただただ戸惑っていました。
近くにいた大人が僅かながらお金を渡すと、彼女は嬉しそうにその場から去っていきました。私はそのお金が、彼女やその家族を少しでも楽にしてくれたらと願いながら、彼女の姿を目で追っていました。ところが彼女は、物陰にいた男性にすぐさまそのお金を渡して、また物乞いへ出向いていったのです。ふと顔をあげた男性の、にらむような鋭い眼光が忘れられずにいます。現地のスタッフさんたちは、タイ国境近くでは人身売買が横行していること、売られた子どもたちが物乞いをさせられていること、同情をひくために血のつながりのない赤ちゃんを抱っこさせられることがあると知らされました。彼女がどんな運命を経てきた子なのかは分かりません。けれども、もしかすると彼女がたどってきたかもしれない過酷な道のりについて、考えずにはいられませんでした。

友情のレポーター、ロウたちとの出会い

カンボジア滞在は、決して厳しい記憶ばかりではありません。国境なき子どもたちが運営する自立支援施設「若者の家」の子どもたちとは、くたくたになるほど遊び、そして深く語り合いました。そのうちの1人、ロウは当時、学校にまだ殆ど行ったことがなく、出稼ぎ先のタイで警察に捕まり、劣悪な環境で過ごしてきたことを打ち明けてくれました。出会ってから15年以上の時を経て、先日、ロウたちと一緒に鍋を囲みました。彼は今、英語やドイツ語の通訳として観光ガイドを務めています。「ねえ菜津紀、覚えてる?あの時、僕は将来、菜津紀たちと通訳を入れずに直接会話をしてみたいって言ったでしょ?その夢が今叶ってるってことだよね」と彼は誇らしげに語ってくれました。

第32回 友情のレポーター カンボジア取材 (C)Natsuki Yasuda/Dialogue for People

今時インターネットを通して、なんでも調べられる、なぜわざわざ日本から取材に行くの?と思う方もいるかもしれません。現在私は、新たな「友情のレポーター」たちの取材に同行させて頂いています。彼ら彼女たちは、かつての私がそうだったように、相手にこんな質問をしていいのだろうか、相手を傷つけないだろうかと、迷いながら取材を続けます。その悩みや葛藤は、実際に現地で出会わなければ生まれなかったものでしょう。そうして出会った誰かと、「あなた」と「私」という関係性を結んだ場所は、もう決して“遠い国”ではないのです。こうして五感を通して感じたものから発する言葉は、立体的で、心に響くものになるはずです。

第33回 友情のレポーター フィリピン取材 (C)Natsuki Yasuda/Dialogue for People

貧困の定義は様々ですが、もしもそれを「機会の欠如」とするならば、教育の役割は、なるべく多様な機会を築き、考えたり感じたりする心の選択肢を増やし続けることではないでしょうか。これからもKnKならではの「共に成長する」機会に、一人の大人として、少しでも携わらせてもらえれば幸いです。

安田 菜津紀/フォトジャーナリスト(プロフィール)

Dialogue for People所属

1987年神奈川県生まれ。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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