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【イベント報告】『シリア難民、子どもたちの明日』 ゲスト講師:安田菜津紀さん

KnKが活動を展開する国々の社会・文化事情に精通したゲストを迎え、諸外国に対する更なる理解促進を目的とした公開講座「シリーズ アジア」。東日本大震災の影響で中断していましたが、今年で団体設立20周年を迎えるにあたり、再開の運びとなりました。2017年5月19日(金)に行われた第18回目のゲスト講師は安田菜津紀さんです。学生の頃から関わりのあるシリアの人々について、ヨルダンで生きる難民の子どもたちについて話していただきました。

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2017年5月19日(金)19:00~20:30 at EIJI PRESS Lab
KnK設立20周年記念公開講座
シリーズ アジア 第18回 『シリア難民、子どもたちの明日』
ゲスト講師:安田菜津紀さん(フォトジャーナリスト)
4月にシリアで化学兵器が使われてシリアの人たちと子どもたちが多数亡くなったというニュースが報じられました。その数日後アメリカがシリアを空爆しました。
今日は「シリア難民、子どもたちの明日」と題して、シリアの子どもたちの日常について皆さんにお伝えしたいと思います。

私の原点

私と国境なき子どもたち(KnK)とのつながりは、私が高校2年生16歳のとき、KnKが派遣する「友情のレポーター」の一員としてカンボジアを取材したときから始まりました。その時私は「トラフィクトチルドレン」という人身売買の被害にあった子どもたちのことを取材したのですが、その経験が現在のフォトジャーナリストとしての私の仕事の原点となっています。

(「友情のレポーター」カンボジア取材/2003年撮影:KnK)

そして私はこのカンボジアという国から、なぜ戦争はいけないのかということを教わりました。カンボジアのように和平が結ばれて20年以上経つ国においても、国内に残された多数の地雷で現在も人々が傷つき続けています。戦争をしてはいけない一番大きな理由がここにあると思っています。

ザアタリ難民キャンプ

カンボジアは少しずつ復興への道を歩んでいますが、例えば戦闘が続くイラクにおいては現在でもアメリカを中心とした有志連合による空爆、地上からはイラク軍による攻撃が止まず多くの町が廃墟と化しています。
そしてその隣国シリアでも、もともとの人口2200万人の内、住んでいた場所を追われた人たちは1200万人以上にのぼると言われており、半数以上が国内、国外に逃れて避難生活を送っています。2009年私が学生だった時に見た首都ダマスカスの美しい風景が今どうなっているのかといつも思いを馳せます。
シリアの隣国ヨルダンでは、シリア国境を越えてヨルダンに逃れて来たシリアの人たちの数は70万人近くになっています。ヨルダンの人口は700万人前後と言われていますので、およそ10人に1人がシリアの人になることになります
ヨルダン北部の一番規模の大きな難民キャンプがザアタリ難民キャンプです。既に8万人近くの人たちが難民キャンプで暮らしています。

(ザアタリ難民キャンプ/2013年撮影:KnK)

(ザアタリ難民キャンプ/2013年撮影:KnK)

この難民キャンプのなかにはいくつかの学校がありますが、基本的にはヨルダンのカリキュラムが敷かれています。ヨルダンのカリキュラムは、国語、算数といった主要教科のみで音楽、図工などの情操教育は行われていません。
KnKが学校の中で支援し始めたのが情操教育に向けてのプログラムです。例えば演劇や音楽のプログラムでは子どもたちは、故郷のシリアの歌を思いっきり歌うことができます。

(ザアタリ難民キャンプ、夏休み直前の発表会/2015撮影:KnK)

子どもたちとの出会い

子どもたちとの忘れられない出会いが沢山あります。
病院の中で出会った片足に大怪我を負った女の子の傍らにはお父さんお母さんがいませんでした。この子だけ治療のためにヨルダンの国境を越えることを許されたのですが、家族は許されませんでした。
傷ついて逃れて来た人たちに対してシャッターを切るときには、目の前の子どもたちが一日でも早く回復するように祈りながら、同時に傷ついている子どもたちがこれ以上現れないようにと祈ります。
誰かの命が失われていくたびに自分の仕事の価値を疑っていくことになりますが、このような時には、現地のNGOの方の言葉を思い起こします。
「NGO職員は現地で人に寄り添って活動し続けることはできるけれど、何が起きているかを世界に知らせることはできない。あなたはここで何が起きているのかを世界に発信することができます。これが役割分担です。」という言葉です。
一人の人間がすべての役割を果たすことはできなくても、各自ができることを少しずつ持ち寄ることはできる。そして今日のように私の話を聞きに来てくださっている皆さま、私の活動を支援してくれているKnKなどの存在があってこそ初めて持ち寄れるものがあります。

教育について

教育の役割を考えています。
シリアからヨルダンに逃れてきた人たちに対して偏見や差別的な言葉を投げかけられるということが起きています。大人同士の溝が子どもたちにも伝わっていきます。
人数の関係で、例えば午前中はヨルダンの子どもたち、午後はシリアの子どもたちと分けて教育が行われていますが、子どもたちを分けて教育したのではこの溝は埋まらないと分かってきたので、補習授業を一緒に行うという取り組みが一部で始まっています。

(ホスト・コミュニティの公立学校/2017年撮影:KnK)

子どもたちは一緒に遊んだり学んだりすることで、少しずつ同じ空間を分かち合って生きていくことができるようになります。その実感を持った子どもたちが大人になって社会を築いていく。教育には長い時間がかかりますが、やがて争いを止めていく力となるのではないでしょうか。

日本にいてできること

日本からどんなことができるのでしょうか?
今私がお世話になっている岩手県陸前高田市の米崎小学校という小学校の校庭に作られた仮設住宅では、お母さんたちが中心になってシリアの子どもたちに送るための衣服や物品を集めてくださいました。冬場のシリアの砂地の難民キャンプは子どもたちの命に関わるほど大きく気温が下がります。
シリアの内戦を止めるような大きな力にはなりませんが、傷ついて逃れて来た人たちを支えるためにできることは日本にいても必ずあります。

新しい命と私たちのできること

最後に新しい命の話で締めくくります。
シリアの中でも特に激戦の町アレッポから逃れて来た16歳の女の子は既に結婚していました。その女の子に新しい命が授かりました。
その命を前にして女の子は「今すぐには無理だけど、いつか皆一緒に自分の故郷に戻って友だちや親せき、家族と一緒に暮らしたい。」と夢を語ってくれました。
この小さな命を前にして私たちに何ができるでしょうか?
シリアの人から次のような言葉を投げかけられたことがあります。
『自分たちを本当に苦しめてきたものは、シリアの政府でもなくイスラム国でもない。これだけのことがこの国で起きているのに世界は自分たちを無視している。関心を寄せられていないということが自分たちを追い詰めていくのです。』
この言葉をぜひ、今日お話ししたことと共に、皆さんの家族の方、友人の方、そしてそれ以外のたくさんの方たちと一緒に分かち合っていただけたらとても嬉しいです。

質疑応答 Q & A

Q1:大学三年生で国際政治を専攻して国連、国、NGOの活動の関与について学んでいます。安田さんは政府を介さないで仕事をしていると思いますが、安田さん自身で解決できないときはどう対処するのですか?

A1(安田):例えば、イラク政府と北部のクルド人自治区のように、一つの国の中で国家が二つある場合は制度も違うし文化も違います。そこを越境できるのが国連などの組織ですが、UNHCRのような大きな組織であっても資金を集めるというのは現在難しくなっています。シリアでは最初は国連が寄付を呼びかけて多くの寄付金が集まったのですが、6年の間に少しずつ減って来ています。それがシリアの人たちの生活に直に影響しています。メデイアの人間が連携して現状を発信し、世界中からの支援に繋げることが今必要になっています。

Q2:長い間戦争が続いている状態を終結させる根本的な方法はあるのでしょうか?実際に現地に行ってこうすればよいということなどはあるのでしょうか?

A2(安田):政治的な解決をすることと同時並行的に人道支援を行わなければなりません。ヨルダンに逃れて来た男性たちの中には、ヨルダンでは仕事がなく疎外感を持ち、兵士として再びシリアに戻って行ってしまう人がいます。兵士として戻ることでさらに戦闘が泥沼化していくという悪循環をおこしています。彼らが安心して生活できる基盤を作れるような人道支援があったなら、この悪循環が断ち切れると思います。隣国やヨーロッパに逃れて来た人たちをどう支えていくのかが一つの大きな鍵になると考えています。

Q3:安田さんの写真の子どもたちの顔が素晴らしいと思います。難民のなかでかなりの人数が子どもたちであると言われていますが、その姿を私たちは公共メディアでは見ることができません。これからも子どもたちの姿を私たちに伝えてください。

A3(安田):メディアの中でも役割分担があります。私たちの仕事はテレビや新聞のようにたくさんの人たちに同時に届けることは難しいのですが、時間をかけて一人の人とじっくり向き合うことができます。人の顔が見えるような伝え方をするように努力したいと思っています。

Q4:安田さんの写真を見ていると、被写体の方と安田さんの間ですごく信頼関係が築かれていると感じます。被写体の方と強い信頼関係を結ぶために心がけていることがあれば教えてください。

A4(安田):締め切りのことを考えずに十分に時間をとり、相手に自分を合わせていくことが必要です。また、心の傷の深い方に対しては、あなたのことが知りたいのだと少しずつ心の扉をノックすることが必要です。そのためには生活を共にすることでコミュニケーションの延長線上にカメラを置くことが重要だと考えています。

終わり

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